先週行われた日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最終プロテストでは、新たに26人のルーキーが誕生した。うれし泣き、悔し泣き、さまざまな思いがこもった涙が入り混じる会場で印象に残った、合格までのストーリーを紹介する。
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「みんな通過点だっていうんですけど、通過点っていう言葉は好きじゃないんです。そう言ってはいられないぐらい時間がかかったし、やっとゴールしたという感じです」
来年1月に25歳を迎える平塚新夢(ひらつか・あむ)は、7度目の挑戦でつかんだ合格をこう表現した。高校3年生だった2017年のステップツアーで史上5人目のアマチュア優勝を果たしてから7年、この期間は難病と闘う日々でもあった。
茨城県・明秀学園日立高卒業直後、18年のプロテストは『群発性頭痛』で2次を前に出場を辞退した。この年まではプロテストを通過していなくても、QTに参加可能だったが、これも体調不良でキャンセル。「たらればですけど、病気がなければ、QTで出場権を獲得して、ツアーで優勝して(日本女子プロゴルフ協会に)入会していたかもしれない。若さと勢いで前に進んでいく人もいるし、どうしてもそれが引っ掛かってしまっていました」。そして国が指定する難病『成人発症スチル症』と診断された。
この病気の主な症状は、関節炎や39度を超える発熱などで、現時点で原因は特定されていない。「今も通院はしているんですけど、薬を飲んで病状は安定していてゴルフに影響はありません」。副作用で顔が腫れるため、現在は飲み薬の量を減らし、並行して2週間に一度の自己注射による治療も行っているという。
ゴルフスタジオに就職し、レッスンをしながらプロテスト合格を目指した時期もあったが、自分のゴルフに専念するため退職。「試合に出て経験を積みたいというのが大きかったですね。プロテストの緊張は全く別物ですけど、緊張感のある中で試合をさせてもらって、それはすごく生きたと思います」。今年5月には「マイナビネクストヒロインツアー」で初優勝という結果も残した。
不合格だったこれまでとの違いとして、平塚は「最後までくじけなかったこと」を挙げた。「最終日はスコアを落として本当にヤバかったんですけど、売店にリーダーボードがあって、合格ラインが落ちてると分かったので頑張れました。最後まで諦めるつもりはなかったけど、それがなかったら、16番でバーディは取れなかったかもしれません」。1つ伸ばせばチャンスがあるという状況が明確になったことで、より力を発揮できた。
くじけなかった理由はもうひとつ。「最近やっとゴルフが好きになったんです」。今になって振り返れば、恵まれた環境だが「以前は父親に練習に連れていかれて、試合にもみんなが出ているし、勝手にエントリーされて出ているという感じでした」。自発的にゴルフをするようになって、そんな気持ちも徐々に変化。好きなゴルフを諦めることは考えられなくなっていた。
プロテスト合格を「ゴール」と表現した平塚だが、決してこれで満足しているわけではない。同時に次のゴールを目指すスタートラインに立ったことも意識している。「合格しただけで終わるのは嫌なので、ツアーに出て安定して上位に顔を出す選手になりたいと思っています」。本人が意識しているかどうかに関わらず、病気と闘う平塚の活躍は苦しんでいる誰かの勇気になるに違いない。(文・田中宏治)