菅沼菜々、そして青木瀬令奈。この両選手に共通しているのは、国内男子ツアー「前澤杯 MAEZAWA CUP」に出場している点だ。新規大会として生まれ変わった「NTTドコモビジネスレディス」の第1ラウンド、そして悪天候による2日目の中止を挟んで行われた第2ラウンドでは、両者が同組でプレー。その様子を見た筆者の率直な印象を記したい。
昨年の前身大会で復活優勝を遂げた菅沼だが、それ以前はスランプに苦しんでいた。24年は29試合に出場して16試合で予選落ち。メルセデス・ランキングは79位に終わり、シードを喪失。ファイナルQTでも結果を残せず、同ランキングは102位まで低迷していた。
そんな中、転機となったのが復活Vの前週に出場した前澤杯だった。
6652ヤードと距離自体は長くないが、男子ツアーのセッティングで戦う未知の環境。さらに予選落ちはなく、4日間を戦い抜くフォーマットも過酷だ。スコアを崩し続ければ、そのまま苦行にもなりかねない。
昨年の前澤杯を取材した筆者は、菅沼、片山晋呉、石川遼の注目組に2日間帯同した。初日のティイングエリアでは、打順が来るたびに小走りになり、どこか慌ただしい様子。飛距離では置いていかれ、数十ヤード先を歩く2人の背中を追いかける展開だった。パッティングも、どこか急ぎ気味だった。
第1ラウンド後、「いつもよりプレーが速いように見えた」と投げかけると、「やっぱりそうですよね」と笑顔で返ってきたのを覚えている。「迷惑をかけないように」。その思いで必死に男子プロについていったというが、その意識が思わぬ効果を生んだ。
「なんかいいリズムで打てたので、これくらいのスピードで、ルーティンも速くていいのかなと思いました」
女子ツアーでは経験の無いスピード感がリズムを整え、むしろ心地よさすらあったという。そして初日はイーブンパー。2005年の「カシオワールドオープン」第1ラウンドでミシェル・ウィー(米国)がマークした1オーバーを更新し、女子選手として男子ツアーでの新たな記録を刻んだ。
4日間を戦う中で、表情もプレーも日に日にたくましさを増していったのが印象的だった。
アドレスに入ったら迷わず打つ。前澤杯で得たリズムを持ち帰り、翌週にはいきなり優勝。あれから1年、浜野で見せた勝ちっぷりは、当時をさらに上回る完成度だった。
そして今年は、青木が前澤杯に挑戦した。
前澤杯、雨の中で迎えた初日は「71」。昨年の菅沼の記録を塗り替え、女子選手として男子ツアーで初のアンダーパーをマークした。勢いは2日目以降も続き、4日間トータル1アンダーでフィニッシュ。飛距離で勝負するタイプではない青木が、このセッティングで残したスコアの価値は大きい。
「NTTドコモビジネスレディス」に話を戻すが、その前澤杯経験者2人に加え、メルセデス・ランキング2位の菅楓華を含めた組で行われた第1、第2ラウンドは、とにかくプレーが速かった。3人とも構えてから打つまでに迷いがない。そのテンポの良さゆえ、前の組に追いつく場面すらあった。
ラウンド中にも前澤杯の話題が出たという。菅沼は「みんなプレーが速いのでいいリズムで回れた」。青木も「本当に速かった」と振り返る。
青木に前澤杯の影響はあったか尋ねると、「めちゃくちゃ大きいです。今まで考えすぎていたし、周り(ギャラリー)が動いても気にならなくなったのはプラス。本当にいい経験になった」と語った。
男子プロとのラウンドでは、飛距離で圧倒されるのは当然。その中で食らいつくには、自然とプレーファストになる。さらに、多少の“雑音”を気にしない姿勢も大きな学びだったようだ。
2週連続出場の疲れもあり、第2ラウンドまでは「71」「72」と伸ばし切れなかったが、最終日は「66」で挽回。「(前澤杯の)効果はあります」とも話した。
もちろん、結果の裏にあるのは日々の積み重ねだ。ただ、前澤杯で得た“速いリズム”が、その質を一段引き上げているようにも見える。
実際、菅沼はあの経験を機に明らかに変わった。青木の迷いなく振り抜くショットを見ても、ツアーで実績を重ねてきた選手でさえ、新たな気づきを持ち帰っていることが伝わってくる。「来年も出たい」(青木)という言葉にも、その価値がにじむ。
男子ツアーへの挑戦は、決して簡単な決断ではない。それでも一歩踏み出せば、確かな変化を持ち帰ることができる。前澤杯は、単なる異種交流ではなく、選手を次なるステージへ押し上げる機会だったのではないか。そんな可能性を感じた3日間だった。(文・齊藤啓介)
