<Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント 2日目◇25日◇芥屋ゴルフ倶楽部(福岡県)◇7216ヤード・パー72>
「藤田さんからの開幕前日の電話が一番大きかった」。宮崎県出身の29歳・黒木紀至(くろぎ・のりゆき)は2日目、4バーディ・ボギーなしの「68」をマークし、トータル7アンダー・19位タイで決勝ラウンド進出を決めた。“藤田さん”とは2012年の賞金王、藤田寛之のことだ。
14年にプロ転向して、ここまで下部のABEMAツアーを主戦場として戦っている黒木。まだレギュラーツアーにフル参戦した経験はない。藤田とは接点がないように見えるが、同じ『パーリーゲイツ』のウェアを着ていることから、2年前にウェアのイベントで初めて出会った。以来、黒木は藤田に教わり始め、今年のオフには一緒に宮崎で合宿を行った。また、今年から藤田もABEMAツアーに参戦しており、黒木と過ごす時間も増えている。
それでも、藤田はシニアツアーをメインにプレーしているため、黒木が直接習う機会は少ない。普段は電話やLINEでスイング動画を送ってやりとりしている。開幕前日の夜は「練習ラウンドがボロボロでした」と、「マルハンカップ 太平洋クラブシニア」に出場するために静岡県・御殿場にいた藤田に電話で助けを求めた。
2年前に「フェードのほうがコントロールしやすい」と藤田から言われ、「もともとドローヒッターでフッカーだった」黒木はフェードにスイング改造した。藤田といえば正確なフェードを武器にツアー通算18勝を挙げたショットメーカー。「最初は怖くて全然ダメでしたけど、ある日突然イメージ通りにいきました」とスイングが安定し始め、昨年6月の「九州オープン」では、ツアー優勝経験のある宮里優作、稲森佑貴、秋吉翔太らを抑えて優勝した。
しかし、今週は「フェードが打ちたいがためにアドレスで左に向いて、でも左が嫌だから体が起き上がって逃がして打っていた」とショットが絶不調に。藤田はそんな黒木に「それはボール位置が外すぎるからボール1個分中(右)に入れて。そうしたらつかまったフェードが打てるから」とアドバイス。「初日に朝にやってみたらハマりました。パターもかなと思って、ボール1個分中に入れたら良くなりました」と、過去に出場したレギュラーツアーのなかで一番いい順位で予選を突破した。
今年6月、今大会と同じ芥屋ゴルフ倶楽部で行われたABEMAツアー「LANDIC CHALLENGE 10」には藤田と黒木が揃って出場。そこでも藤田は黒木のゴルフを劇的に変えるアドバイスをおくっている。「8番アイアンの飛距離は160ヤードなんですけど、残り155ヤードだったら迷わず8番アイアンで軽く打っていたんです」。つまり、黒木はどのホールも、必ずピンまで届くクラブを選択していた。
すると藤田は、「予選落ち確定のホールインワンを狙っているやつと同じだよ。そんなゴルフじゃダメ」とぴしゃり。それから黒木は「ピンは狙わない。全部ワンピン手前」のゴルフにチェンジし、「そうしたらボギーを打たなくなりました」とスコアが安定。事実、大会2日目はボギーフリーで18ホールを駆け抜けた。
全部ピンを狙ってオーバーすれば下りのパットが残り、左右にズレれば横から大きく曲がるラインが残る。また、グリーンをオーバーすれば、寄せるのが難しいアプローチを打たされることも。それがワンピン手前に乗せれば、曲がりが少なくしっかり打てる上りのラインから打つことができる。「下りや横のラインばかり打つと距離感やタッチも合わなくなる。いまはできるだけ上りにつけるように考えています」。
そんなマネジメントができるのは、ショットが安定してきた証拠でもある。決勝ラウンドは「ショットをもうちょっと良くして、ピンポジションも難しくなってくると思うので、その辺も考えてやっていきたい」と、ショットとマネジメントの両面をさらに整えていく。昨年、黒木が九州オープンに優勝した同じ週に、藤田は「スターツシニア」でシニアツアー初優勝を挙げた。「将来は海外ツアーにも行ってみたい」という弟子は、御殿場で戦う師匠に朗報を届けたい。(文・下村耕平)