<伊藤園レディス 最終日◇10日◇グレートアイランド倶楽部(千葉県)◇6769ヤード・パー72>
1年8カ月ぶりの優勝も、劇的で、かつ自らの窮地を救うものになった。「信じられないなという気持ちが大きい。(来週の)エリエールが終わったらQTのために、宮崎でしっかり練習しようと思っていたら…リコーが入るなんて」。この優勝で地元に戻る目的が大きく変わった。
試合が始まる前のメルセデス・ランキングは73位。昨年手にしたシード権死守の崖っぷちに立たされていた。それゆえ、本人もこの優勝に目を丸くする。「ここ最近、調子は上がっていました。ショットが今イチだったけど、クラブを替えたりしてよくなった。ただここ1、2カ月は、なかなかパットが決まらなかったけど、今週はそこがうまくいきました」。パット数は3日間トータル平均で『26.67』。全体1位に輝いたこの部分を誇る。
首位と1打差の4位で迎えた最終日は、山下美夢有や、猛追してきた申ジエ(韓国)らが上位にひしめく稀に見る混戦模様。そんななか安田祐香と並び、優勝争いをリードしていった。終盤まで突き放せない展開ではあったが、大会を通じて難度1位だった17番パー3でビッグプレーが生まれる。
ここは左に池が待ち構えるホールで、最終日はそこにほど近い左奥にピンが切られていた。大きなプレッシャーのなか放ったティショットは、右奥のカラーに着弾。そして「寄ればいい」という気持ちとともに、54度のウェッジで打った20ヤードのアプローチがラインに乗り、カップに吸い込まれた。「まさか入るとは思ってなかったので、うれしい気持ちが出ました」。チップインを確認すると、大拍手を送るギャラリーの方を向いてバンザイ。よろこびを爆発させた。
この17番は、初日にダブルボギーを叩いた因縁のホールでもあった。それは「そこに向かうにつれ心拍数が上がりまくりました」というほどだ。しかしそんな“鬼門”が、“優勝を決定づける場所”になった。
地元で行われた昨年3月の「アクサレディス」で初優勝。その時は、QTランク181位で下部のステップ・アップ・ツアーへの出場もままならないなかつかんだ勝利だった。そして今回も、シード落ち目前から這い上がる1勝に。「アクサで優勝した時はチップインが2回あったんです。きょうも1個目のチップイン(7番)をしたときに『いい流れが来るかもな』と思ってやっていました」。そこにはこんな共通点もあった。
後続を見守り、優勝が決まると大粒の涙がこぼれ落ちる。「最初は(藤田)さいきさんが泣いていたので、もらい泣きだったんですけど、いろいろなものがこみ上げました。今年はなかなか成績が上がらなかったり、今からQTに行かなければいけないという気持ちでした。それが無くなったうれしさの涙だったかなと思います」。その藤田は、普段から練習ラウンドをともにし、スイングを参考にしている先輩。今季終盤に、幸せな時間を共有することができた。
「宮崎に練習しに帰るつもりだったのに、最終戦に出られるというのが、気持ち的にすごく楽。宮崎の皆さんにもよろこんでもらえるかなと思います」。21日から始まるメジャー大会「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」は、今季優勝者やランキング上位者40人のみが出られるエリートフィールドだ。そこに2年連続で出場できるよろこびを噛みしめながら、胸を張って生まれ育った故郷に帰る。(文・間宮輝憲)