PGAツアーとZOZOとの6年契約が満了し、ついに「最後のZOZO」となった今年のZOZOチャンピオンシップは、フェデックスカップ・フォールの大会とはいえ、世界ランキング2位のザンダー・シャウフェレや同4位のコリン・モリカワ、同7位の松山英樹が出場し、開幕前から大きな注目を集めていた。
しかし、蓋を開けてみれば、どうしたことか、世界のトップ中のトップである彼らは揃って振るわず。その隙をつくように上位に浮上したのは、ジャスティン・トーマスやリッキー・ファウラーといった日本でも知名度が高い選手たちだった。その一方で、2日目にリーダーボードの最上段に浮上したのは、日本でも世界でも、あまり知られていないコロンビア出身のニコラス・エチャバリアだった。
最終日は、首位を走っていたエチャバリアと2打差で追うトーマスの争いになることが予想され、「どちらが勝ちそうか?」と問われたら、おそらく誰もが「トーマス」と答えたのではないだろうか。世界ランキング32位のトーマスはメジャー2勝を含む通算15勝。エチャバリアは世界ランキング292位で、PGAツアーでは2023年のプエルトリコ・オープンで初優勝を挙げたばかりだ。
さらに言えば、プエルトリコ・オープンはシグネチャー・イベントであるアーノルド・パーマー招待と同週開催の大会ゆえ、出場選手の顔ぶれ的には「弱小フィールド」と言わざるを得ない。そこで1勝を挙げたエチャバリアと、メジャー大会やビッグ大会で数々の勝利を重ねてきたトーマスのどちらが強そうかと問われたら、やっぱり「トーマス」と言いたくなる。
だが、エチャバリアは「どこで勝ったとしても、優勝は優勝だ」と胸を張り、「去年のプエルトリコで勝った経験を活かし、最終日は気持ちを先走らせることなく、フェアウェイとグリーンをしっかり捉え、パットを沈めるのみだ」と落ち着いた様子を見せていた。
その言葉通り、エチャバリアは「格上」のトーマスに臆することなく、堂々たるプレーぶりを披露した。72ホール目の18番(パー5)では、ともにトータル19アンダーで並んでいたマックス・グレイザーマンがパーどまり。トータル18アンダーで追っていたトーマスがバーディを奪って19アンダーとしたが、そんな2人を傍目に、エチャバリアは2打目できっちりグリーンを捉え、ファーストパットを80センチに寄せた後、短いバーディパットを沈めて通算2勝目を勝ち取った。
「初優勝のときより忍耐強く落ちついてプレーできた。素晴らしい2人の選手を抑えて優勝できたことは、とてもうれしい」
2019年大会のタイガー・ウッズの優勝スコアを1打更新するトータル20アンダーで勝利したことは「信じられない」と目を丸くしながら喜んでいた。
父親と祖父に連れられ、2歳からゴルフコースに行っていたというエチャバリアには2人の兄がいる。一番上の兄アンドレスはPGAツアー・ラテンアメリカで2勝を挙げて、現在は下部ツアーのコーンフェリーツアーで戦っている。そのアンドレスはフロリダ大学出身で2番目の兄ミハエルはミシガン大学出身、そして末っ子のエチャバリアはアーカンソー大学出身だ。世界のどの国の出身であれ、米国の大学へ留学し、カレッジゴルフ(NCAA)を経てプロ転向することは、昨今の世界のゴルフ界の常道、いや王道となりつつある。
だが、どこで修行し、どこが主戦場だとしても、母国への想いは常に深い。
「僕がPGAツアーで優勝したことが、コロンビアのゴルフの成長と発展につながってくれたら、うれしい」
習志野を訪れた日本のファンは一心に松山を追っていたが、きっとエチャバリアも母国に戻れば、「コロンビアの松山英樹」のような存在になりつつあるのだろう。ZOZOチャンピオンシップで米国以外の選手が優勝したのは2021年の松山以来、2人目だ。「最後のZOZO」で国際的なチャンピオンが誕生したことは、「日本におけるPGAツアーの大会」開催の今後につながるのではないだろうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)