PGAツアーのフェデックスカップ・フォールの大会、米ラスベガスで開催された「シュライナーズ・チルドレンズオープン」。開幕前から話題を独占していたのは、今大会に推薦出場した米LPGA選手のレクシー・トンプソンだった。
女子選手によるPGAツアーへの挑戦は、トンプソンが史上7人目。1945年のベーブ・ザハリアス(米国)に続く予選通過を「唯一最大の目標」に掲げていたトンプソンは、初日は「73」とやや出遅れたが、2日目はバーディラッシュで巻き返し、カットラインまで「あと少し」と迫った。
しかし、その後に2つのボギーを喫し、小さな可能性を抱いて臨んだ最終ホールの9番(パー5)はスコアを伸ばすことができず、パーどまり。
終わってみれば、カットラインに3打及ばず予選落ちとなったが、「あと少し」というワクワク感は、彼女のプレーを眺めていた人々を十分に沸かせ、楽しませてくれたのではないだろうか。
そして、「私が挑戦する姿が子どもたちへのメッセージになれば」と願ったトンプソンの想いは、ゴルフキッズにもゴルフファンにも十分に伝わったはずだと私は思う。
トンプソンがラスベガスから去ると、まるで主役の座を入れ替わるようにして話題の中心となったのは、今大会にディフェンディング・チャンピオンとして臨んでいた21歳の韓国人選手、トム・キムだった。
昨年8月の「ウィンダム選手権」で初優勝。10月のシュライナーズ・チルドレンズオープンで早々に2勝目を挙げて、瞬く間にスターダムを駆け上がったキムは、今年は2つのタイトルのディフェンドを「何より楽しみにしていた」という。
しかし、今年のウィンダム選手権は足首の故障により泣く泣く欠場を決めた。「全英オープンの直後で、足首を痛めたままだった。ディフェンドに挑めず残念だった」。
だからこそ、キムは今大会の連覇に燃えていた。ムービングデーと呼ばれる3日目に「62」の快スコアをマークし、ビッグムーブで首位タイに躍り出たキムは、タイトル・ディフェンドの可能性に大きくにじり寄った。
最終日は早い時間にティオフしたエリック・コール(米国)がスコアを9つ伸ばして首位に浮上。キムにプレッシャーをかけてきた。
しかし、「自信はあった」と振り返ったキムは、その言葉を実証するかのように、恐れを知らないアグレッシブな攻めと、たとえミスしてもそれを補うに足る高い技術力、冷静な判断力で着々とスコアを伸ばしていった。
勝利へのカギとなったのは短いパー4の15番。果敢に振ったドライバーショットはグリーン右に外してしまったが、目の前の小枝とバンカーをうまくかわし、ピン4メートルに乗せた2打目と、しっかり沈めたバーディパットは実に見事だった。
16番、17番ではファーストパットの距離感が合わず、ひやりとさせられる場面もあったが、うまくパーを拾い、2位に2打差で迎えた最終ホールは危なげなくパーで収め、トータル20アンダーで大会連覇を達成。拳を小さく握り締め、笑顔で連覇の味を噛み締めた。
ツアー2年目の21歳とは思えないほどの冷静沈着な戦いぶりには貫録さえ漂っていた。「今シーズンは僕にとって初めてのフルシーズン。長い1年だったけど、気を引き締めて努力を積んできた。ウィンダム選手権は出場できず残念だったけど、今回はタイトルをディフェンドできる機会に恵まれ、とてもラッキーだった」。
テレビ中継のレポーターから「これで早くも通算3勝。ご気分は?」と問われると、「そりゃあ、2勝より3勝のほうが、ずっとうれしい!」。
正直でストレートな返答に、キムの大きな喜びと若者らしさがあふれ返った。
キムと同組で回り、最終ホールで会心のバーディを奪って単独2位になったアダム・ハドウィン(カナダ)は「トーマスは本当にステディなプレーをしていた。リズムもペースもすべてが安定していた」と手放しで大絶賛した。
本名はキム・ジュヒョン。愛称のトムは彼が幼少時代からずっと大好きな『きかんしゃトーマス』から取ったというエピソードを、1年ぶりに思い出したファンは多かったのではないだろうか。
愛されキャラの「トーマス」のさらなる成長は、ゴルフ界の大きな期待であり、楽しみでもある。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)