これまでテレビ越しに見てきた憧れの舞台に、人生で初めて足を踏み入れた。実際に目の前に広がっていたのは、言葉では言い尽くせないほど美しい景色と、まるで別世界に迷い込んだかのような特別な空気。オーガスタ・ナショナルGCを初取材した記者が、その魅力をお届けする。
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今大会を2位で終えた2022、24年に制しているスコッティ・シェフラー(米国)が、最終組で首位に立っていたローリー・マキロイ(北アイルランド)に2打差2位でホールアウトした時点で、マキロイは後半16番をプレーしていた。
筆者にとって人生初のマスターズ。せっかくなら優勝の瞬間をこの目で見たい。そう思い、プレスビルディングでの作業を急いで終わらせ、18番グリーンへと向かった。
グリーン周辺には10席ほどのプレス専用席も用意されている。マキロイの組には多くのパトロンが帯同していたため、残り3ホールの時点なら座れるかもしれない。そう思っていたが、時すでに遅し…。
到着した時にはすでに満席。早朝から席を確保していたパトロンに加え、大勢の人だかりができていた。身長153センチの筆者は椅子席の後方に立ったが、グリーンどころか選手の頭さえも見えない。幼い頃、父に肩車をしてもらっていた記憶がふとよみがえり、少し恋しくなった(笑)。
見えないならプレスビルディングに戻って中継を見ればいい。そうも思ったが、それでもこの空気を、その場で味わいたかった。
椅子席の合間の通路で観戦する人もいたが、「そこでは見てはいけない」と注意する声も飛ぶ。ルールを守って観戦する姿勢が、会場全体に徹底されていた。
マキロイの前2組のジェイソン・デイ(オーストラリア)とジャスティン・ローズ(イングランド)、シェーン・ローリー(北アイルランド)とサム・バーンズ(米国)がホールアウトし、2位に2打差をキープしてていたマキロイが18番グリーンに上がろうとした瞬間、パトロンから「ローリー!」の大合唱が響き渡った。
筆者から見えるのは向かい側のパトロンたちの姿だけ。手前から奥へと波のように立ち上がり、拍手が広がっていく。その流れに身を任せて拍手をすると、小さな音がやがて大きなうねりとなり、まるでオーケストラのような一体感が生まれた。
後に動画で見返すと、約20センチのウイニングパット(最終ホールはボギー)を沈めたマキロイは空を見上げ、感情を爆発させて雄たけびを上げていた。しかし、その場にはその声は届かない。それでも、会場全体が一つとなって勝利を喜ぶ空気は、まるでライブのようだった。
初日から観戦して感じたのは、パトロンの優しさだ。背伸びをしていると「前においで」と声をかけてくれることも多い。自分より背の高い人が多いからこそかもしれないが、そうした思いやりにあふれた会場だと感じた。
その後、表彰式はクラブハウス前の練習グリーンで行われた。18番グリーン周辺にいたパトロンたちが一斉に移動し、筆者はマキロイの背中側ながら最前列で見ることができた。
多くの人が集まる中でも、その表情はどこか柔らかく、優しい眼差しでマキロイを見つめている。スピーチが始まると、その言葉に反応し、胸を打たれている様子が伝わってきた。マキロイの背後に広がる夕焼けの光景は、今でも強く印象に残っている。
表彰式後はプレスビルディングへ移動。国会議事堂を思わせる広い会見場で、マキロイが報道陣の質問に丁寧に答える姿にも心を打たれた。その表情からはさまざまな感情が伝わってきた。
月曜日から7日間にわたる取材。世界最高峰の舞台をこの目で見て、この場所で取材ができたことに、この仕事をしていてよかったと心から思えた。幸せを感じた一週間だった。(文・高木彩音)
