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スコアを崩すのはショットではなく思考のせい? ミスした時は”フィードフォワード”が大事【メンタルコーチに聞く・中編】

近年、プロゴルフの世界ではメンタルコーチの存在が珍しくなくなってきた。しかし実際にどのようなトレーニングを行い、プレーにどんな変化が生まれるのかは、あまり知られていない。ツアープロのメンタルコーチ兼キャディを務める出口慎一郎氏に、選手と取り組んでいるメンタル術や選手との取り組みについて聞いた。今回は、『メンタルトレーニングの基本』について。

所属 ALBA Net編集部
高木 彩音 / Ayane Takagi

配信日時:2026年3月12日 15時00分

メンタルコーチ兼キャディの出口慎一郎氏
メンタルコーチ兼キャディの出口慎一郎氏 (撮影:福田文平)

近年、プロゴルフの世界ではメンタルコーチの存在が珍しくなくなってきた。しかし実際にどのようなトレーニングを行い、プレーにどんな変化が生まれるのかは、あまり知られていない。ツアープロのメンタルコーチ兼キャディを務める出口慎一郎氏に、選手と取り組んでいるメンタル術や選手との取り組みについて聞いた。今回は、『メンタルトレーニングの基本』について。(取材/構成・高木彩音)

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日本のスポーツ界では長い間、メンタルを科学的に鍛えるものというより、『気合』、『根性』、『我慢』、『集中しろ』などといった言葉で片づけられ、気持ちや根性で乗り越えるものと考えられている印象がある。日本では、メンタルが弱かったり、心理サポートが必要という人に対して”弱さの表れ”と捉える文化のようなものも感じられる。

ゴルフは思考、判断、プレッシャーが結果に直結する競技。米国ではジュニア時代からメンタルトレーニングを受ける選手は多い。米ツアー通算82勝を誇るタイガー・ウッズでさえも、4歳から父親に集中力を鍛えるトレーニングを受け、10代からは心理学者のジェイ・ブルンザに師事。リラクゼーション、集中力、そしてポジティブな結果をイメージすることを学んだ。米ツアー通算7勝のコリン・モリカワも8歳頃からメンタルトレーニングに取り組んでいると言われている。

日本では「メンタルコーチをつけています」と言うこと自体に抵抗を感じるケースもあり、公にしにくい環境でもあった。しかし、最近はトップアスリートが、その取り組みを公表することで徐々に変わりつつある印象だ。

今回のインタビュー前編では、『ゴール(目標)設定』の仕組みについて聞いた。メンタルトレーニングは、成長を止めないために、現状の延長では到達できない大きなゴールを設定することから始まる。そこから逆算して練習法や思考法、試合中の課題への対策を具体化し、選手自身が過去の思考や行動パターンを振り返り、プランを立てている。

セッションは、オフシーズンも行われている。その目的は、シーズン中の意識への「クセ付け」だ。シーズンが始まると試合期間中はほぼ毎日のようにセッションが実施され、思考を整えている。では、どのような取り組みを行っているのか、その軸になるものとは?

ツアープロのメンタルコーチ兼キャディを務める出口慎一郎氏

ツアープロのメンタルコーチ兼キャディを務める出口慎一郎氏 (撮影:福田文平)

■メンタルトレーニングの基本は「事実」と「解釈」を分けること


メンタルトレーニングで大切にしている考え方の一つとして「事実と解釈を分けて考える」ことだという。「事実」とは、実際に起きた出来事や数字など誰が見ても変わらない情報。一方で「解釈」は、その出来事に対して自分がどう意味づけをするかという主観を指す。例えば『スコアが72だった』は事実だが、『きょうはダメなゴルフだった』は解釈だ。

「ラウンド中にボールがグリーンの右に外れた時、みなさん“痛み”になりやすい。『ミスした…。下手くそだ…』と。それは親や先生に“下手”って言われた過去の解釈が残っているから。それで自分自身をフィードバックしてしまう。まずは、グリーンの右にボールが外れたという、この事実を受け止めるトレーニングをします」

結果に感情や評価を重ねすぎると、必要以上に自信を失ってしまうこともある。まずは起きた事実を冷静に受け止め、その上で次に何を改善するかを考える。そうした思考の整理が、安定したパフォーマンスにつながるという。

■思考を変える「問い」 フィードフォワードの考え方


事実を受け入れるトレーニングとは?

例えば、朝イチにすごくいいショットを打ったが、アゲンストの風で戻されて 15メートルほどのロングパッドが残ったシーンを想像してほしい。そのときに「多くの人は『なんでかな、なんでこの番手にしちゃったんだろう。下手だな…』と言いながら進んでしまいます」と、その結果に対しての理由を考え、分析しようとする。

そういった思考が「フィードバック」になる。これは悪いことではないが、『なんで? この前もやったじゃん』と、「自身でフィードバックして過去の追体験をしていく」ことは、ネガティブな思考につながる。そのあと本来ならできたパフォーマンスに悪影響が出てしまう状況をつくりやすい。

だからこそ、未来を見て、“どのようにすれば上手く行く”のか、という「フィードフォワード」することが大事だという。15メートルのロングパットの状況を受け止めて、『どのようにしたらここを2パットもしくは1パットで終えますか?』などと選手に問い、結果に対しての分析よりも、次のことを考える意識づけをさせる。

「みんなの思考がクリアに前向きになっていく。『なんでかな――』ではなく、『どのようにしたら――』という問いを自分でつくれるように。一人一人に、“インナーキャディ”や“インナーコーチ”を作らせるための言語化をしています」。それが、事実を受け入れて、スコアにつながる前向きなことを考えるということにつながるのだ。

出口氏から解決策を提示することは、ほとんどない。1つの悩みに対して“問い”を繰り返し、自身の過去の経験などから答えや解決策、次に実行する行動を決める。それは、マネジメントやクラブ選びも同じ。メンタルトレーニングは『自分で考える、自分の思考を整理する、自分で意思決定する』という主体性型のトレーニング。考えを整理し、できるだけ迷いをなくして試合に挑んでもらうことが目的だ。

いたってシンプルに思えるが、無意識に前向きな思考ができるのは簡単なことではない。前向きな思考を「習慣」にするために、トレーニングを繰り返す。そうすることで結果に対して冷静に向き合い、次のプレーに集中できる思考が身につく。そうして初めて、選手が本来持っている技術を最大限に発揮できる。

――後編では、こうしたメンタルトレーニングを続けることで生まれる「成長の仕組み」と、選手たちの思考やパフォーマンスにどのような変化が起きるのかに迫る。

■出口慎一郎
いでぐち・しんいちろう/1983年11月28日生まれ、長崎県出身。認知科学コーチ、スポーツメンタルスペシャリスト、ポジティブ心理学、アンガーマネジメントの資格を持つメンタルコーチ。主にアスリートのメンタルサポートを行うほか、企業向けのコンサルティングや講習も実施している。現在は男子プロゴルファーの岡田晃平らをサポートしながら、トーナメントではキャディとしても活動。専属キャディを務めたチャン・キム(米国)は2020-21シーズンの国内男子ツアー賞金王を獲得した。キャディとしてサポートした選手の優勝は7回、メンタルサポートを行った選手の優勝は8回の実績を持つ。2026年2月には「3カ月であなたのゴルフを覚醒させる~賞金王キャディの勝利脳ゴルフコミュニティ~」をコンセプトにした『GCC(ゴルフコーチコミュニティ)』を立ち上げた。

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