2024年限りでツアーから撤退した上田桃子や、2025年のプロテストに合格した藤本愛菜、千田萌花らが所属する「チーム辻村」。そのチームを率いるプロコーチ・辻村明志氏に、全英女子を制した桑木志帆のスイングについて、じっくり話を聞いた。
◇ ◇ ◇
「AIG女子オープン」(全英女子)を制した桑木志帆プロ。今回は編集部から、その強さ、また強いフェードボールが打てるスイングについて解説を求められました。これについては、ボクにとっても非常に興味深いテーマでした。
まず一昨年、最終戦のメジャー優勝を含む3勝でブレイク。昨年は優勝こそありませんでしたが、今年は3勝を挙げ、全英女子には満を持して向かいました。
数多くのバンカーが待ち受けるロイヤル・リザム&セントアンズGCで、FWキープ率78.6%パーオン率80.6%。この驚異的なショット精度の高さが、大きな勝因であることは間違いありません。
一昨年、桑木さんが大ブレイクした時期から、「このスイング、誰かに似ているな?」と感じていました。あれこれ考えた結果、たどり着いた一人の選手がジム・フューリクでした。2003年の「全米オープン」を含む、米ツアー通算17勝を記録。2度の50台達成は、いまだ前人未到の大記録です。世界ランキングの最高位は06年の2位ですが、トップに君臨していたのがタイガー・ウッズと思えば、致し方ないところです。
それはともかく、2人のスイングは非常に似ています。まずアドレスですが、フューリクの方がやや猫背です。一方、2人ともボールの近くに立ち、手元はほとんど肩の真下。グリップと体の間に拳ひとつも入らないほど、手元が体の近くにあるのが大きな特徴です。
さらにインパクトです。その手元に注目してください。アドレス時とほとんど同じ位置のまま、ボールを捉えていることが分かります。腰は45度ほど回っていますが、「回っている」というより「切れている」と表現した方がふさわしいでしょう。
体を回せ、腰を回せといったレッスンは多いのですが、多くのアマチュアは腰を早く回すことで、腕とクラブが遅れて遠回りし、その結果、手元が浮き、左ワキが空いてヒジが体から離れてしまいます。しかし、2人の手元はまったく浮いていません。これができるのは、強い体幹の証明であり、強いフェードボールが打てるスイングの正体です。
構えたときの手の位置で打てること、腕とクラブが体の近くで回転できることは、別の見方をすれば、ビジネスゾーンが決して暴れないことにほかなりません。なぜなら、足と腰のタイミングで振るしかなく、いわゆる手打ちができないからです。
飛んでいくボールは正直です。体の近くで回転すれば、インから下りてきた腕とクラブは、インパクトからフォローにかけてもインサイドを通ります。そうなると、ボールは左に出ていきます。しかし、ビジネスゾーンが暴れない、つまりフェースを返せないため、左に出たボールは右に戻ってきます。しかも、手打ちではなく、下半身を回して腰を切るスイングですから、これがボールに圧をかけたフェードボールとなるわけです。
もうひとつ、桑木プロとフューリクの共通点がインパクトの音です。アイアンでもバンスを使った「ターン」という乾いた音。これが、薄く長いターフが取れる理由です。このターフの形も、2人はとても似ています。
スイング軌道は、アウトサイド・インでもインサイド・アウトでもない、イン・トゥ・イン。このスイングを見て僕が思い出したのが、師匠の故・荒川先生の言葉でした。
「ライトポール際に上がった左打者の王(貞治)のボールは、切れることなくライトスタンドに吸い込まれていった」
バットが体の近くを通り、インサイドに振り抜けるからこそ成せる業です。この反対のスイングが、野球では忌み嫌われるドアスイング。腕とバットが遠回りすれば、ボールはファウルゾーンへと流れていきます。王さんの打ったボールは、ゴルフでいうところのパワーフェード。桑木プロのスイングが、まさにそれなのです。
この2人のようなフェードのスイングを取り入れたいというアマチュアの方に、おすすめのドリルがあります。
ミドルアイアンを持って、体が壁の正面を向くようにアドレスしましょう。トゥ側が壁に触れるようにセットしたら、壁の内側を振るように素振りしてください。最初はハーフスイングで確認しながら行い、その後はゆっくりと素振りしましょう。手元が体から離れると、ヘッドが壁に当たって振れません。
この状態で素振りができたら、手元が体の近くを通り、イン・トゥ・インで振れた証拠。ぜひ挑戦してみてください。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも指導。2025年は千田萌花、藤本愛菜をプロテスト合格へと導いた。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフ指導に取り入れている。元ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』947号より抜粋し、加筆・修正しています。