2024年限りでツアーから撤退した上田桃子や、2025年のプロテストに合格した藤本愛菜、千田萌花らが所属する「チーム辻村」。そのチームを率いるプロコーチ・辻村明志氏に、パワーヒッターとして知られる尾崎将司氏のダウンスイングについてじっくり話を聞いた。
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今年の3月16日、都内・帝国ホテルで開かれたジャンボ(尾崎将司さん)さんのお別れ会に行ってきました。ジャンボさんの伝説的キャディ・佐野木計至さんのお供です。佐野木さんが読まれた弔辞からは、産婆さんも一緒で、保育園から小・中・高、そして選手とキャディとして人生をともに歩まれた2人の絆の深さが伝わってきました。恐れ多くもそんなお二人とご縁があったことを、ゴルフに生きる者として本当に幸せだと感じた次第です。ジャンボさんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。
さて、会場に飾られたジャンボさんのスイング写真からは、改めて代名詞である「飛ばし」の真髄を教えていただいているようでした。その勇姿は懐かしく、ゴルフを始めた小・中学生時代に取り組んでいた練習を思い出しました。
その練習というのは、両ヒザの間に風船を挟んで振る練習です。切り返しで風船を少し落とすイメージです。後に風船はメディシンボールに変わりましたが、その方が太モモに挟んで落とす感覚をより理解しやすいと思います。
ジャンボさんの写真を見ると、切り返し直後には両ヒザの間隔がアドレス時よりもわずかに広がっていることが見て取れます。右ヒザの位置はそのままで、左ヒザが開くと言った方がいいでしょうか。風船が押しつぶされるのはその後で、実際のスイングではインパクトからフィニッシュにかけて割れるくらいが理想です。実際の練習は、ダウンのシャドースイングで十分でしょう。
では、ダウンでヒザの間隔が逆に狭まると、どんなスイングになるのでしょうか。右ヒザが前に出る、アドレス時の前傾角が崩れる、左腰が引けて体が開く。その結果、アウトサイド・イン軌道となり、飛ばない、スライスする打球の原因になります。
ダウンで両ヒザの間隔が少し広くなる写真を見ると、ダウンで少し沈み込む様子がうかがえます。沈み込むとヒザの間隔は広がりやすくなります。しかし、沈み込みはしても、ヒザ関節と股関節の角度は変わりません。実はこの角度こそ、ダウンでキープしなければならない前傾角なのです。同時に、これがパワーを蓄える極意でもあります。
前傾角キープの重要性は、多くの指導者やプロ、上級者が指摘しています。ところが最近、ボクはこの説明が不足していたことを反省しています。というのも、多くのアマチュアは前傾角というと、腰から上の上半身の角度だと勘違いしているのではないでしょうか。ジャンボさんの写真を見て、改めてそのことに気付かされました。
もちろん、結果として上半身の前傾角がキープされるのは間違いではありません。ただ、この上半身の前傾角だけをキープしようとすると、どうなるでしょうか。頭を残すことばかりが意識され、ジャンボさんのような沈み込みも、両ヒザの間隔が広がる動きも生まれません。確かに軌道はオンプレーンになるかもしれませんが、いわゆる完全な手打ちスイングです。スイング中にバランスを崩すこともしばしばあり、これでは前傾角はもちろん、頭の位置もキープできず、飛ばないスイングになってしまいます。
繰り返しますが、スイング中にキープしなければならない前傾角とは、アドレス時のヒザ関節と股関節の角度です。これをキープするための動きが、切り返し直後に両ヒザの間隔が広がる動きであり、ジャンボさんの写真に見られる沈み込みです。これはタイガー・ウッズやスコッティ・シェフラーや松山英樹選手ら、世界の一流選手にも共通する動きです。
ゴルフスイングの世界では、一時「地面反力」という言葉が流行しました。もちろんボクも、それを否定するものではありません。しかし、あえて地面を蹴って伸び上がるというより、一度ダウンで沈み込んで蓄えたエネルギーを、インパクトにかけて解放する。この自然な動きこそが地面反力なのです。その大前提となるのが、正しい意味での前傾角、つまりヒザ関節と股関節の角度をキープすること。そして、それを可能にしているのが、ジャンボさんの切り返しに見られる両ヒザの動きなのです。
さて、ボクの師匠である故・荒川博先生は、指導中によく「割れ」という言葉を使いました。ざっくり言えば、体を二つに割り、大きく効率的に使うという意味です。上体は右に動き、下半身は左に動く捻転差を作ることで、大きなパワーを生み出せます。荒川先生は合氣道や歌舞伎にも通じていましたが、日本の古武術や伝統芸能に共通する概念です。
ジャンボさんの切り返しの両ヒザの動きは、まさに「割れ」だと確信しています。だからこそ、あの飛距離と前人未到の大記録が生まれたのです。
■辻村明志
1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも指導。2025年は千田萌花、藤本愛菜をプロテスト合格へ導いた。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフ指導に取り入れている。元ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』935号より抜粋し、加筆・修正しています