2024年でツアーから撤退した上田桃子や昨年プロテストに合格した藤本愛菜、千田萌花が在籍している「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏。今回は米ツアーで活躍した宮里藍のスイングについて聞いた。
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脱力の重要性、力みの弊害については、この連載でも何度も繰り返してきました。車に例えるなら脱力はアクセル、力みはブレーキです。ところがここで重要なのは、脱力するのは難しく、スイングにはどうしても力みが生じてしまう、ということではないでしょうか。
これについてはプロであっても同じ。そこで今オフにチームで掲げたテーマは「肩から先は完全脱力」。そのためには、ダメだとわかっているのに、どうして力むのかという問題です。
最近は弾道計測器による数値が、コーチと選手との共通言語になりました。「もっと脱力しなさい」という指導より、普段のスイングより力を抜いて振ると飛距離もヘッドスピードも数値が上がるという現実が、選手の理解、向上心に結びついています。
では、実際にコースで打つと、どうして力が入ってしまうのでしょうか。実はそれは単純なことで、プロや上級者であれば上手にフェースにボールを乗せて運びたい、多くのアマチュアであれば上手く当てたい、遠くに飛ばしたいといった欲や不安が働いているからです。さて、この力みを取り除くのが、僕はコーチの究極の仕事だと肝に銘じる次第です。
そうした観点からあらゆるプロのスイングを眺めたとき、僕が理想とするのが宮里藍プロでした。正直、あれだけゆっくり振れる選手は、世界中を探しても宮里プロしかいません。
余談ですが、以前「宮里藍サントリーレディス」で、少し宮里プロと話す機会がありました。同大会は彼女がホステスを務める大会です。そのためプロアマに出場するわけですが、その時、彼女が言ったのが「最近、クラブを握ることが少なくなったせいか、ゆっくり振れなくなった」というものでした。
改めて宮里プロが、ゆっくり振る、つまり完全脱力して振ることを現役時代に大きなテーマとして考えていたことを思い知らされました。
宮里プロの凄みは、14本すべてのクラブを同じ力感、同じリズムで打てることだと考えています。そのボールは誰よりもゆっくり飛んでいき、グリーンをとらえては2、3バウンドで狙ったところにピタリと止まります。特にアイアンのタテ距離の正確さは、同じ力感、同じリズムで打てるスイングの賜物です。
2006年から米女子ツアーに挑戦し、2009年の初優勝までの間に人生で初めて味わうスランプに見舞われました。この時期については報道でしか知りませんが、外国勢の飛距離に対応しようとしたことが原因だったのではないかと感じています。あくまで外から見た印象ですが、持ち味であるゆっくりしたスイングができなくなっていたように見えました。飛距離を伸ばそうとした挑戦が、力みを生んだのではないでしょうか。
もちろん飛距離はアドバンテージです。しかし飛距離は力任せに伸ばすものではありません。むしろ力みを取り除いて、完全脱力で伸ばすものです。例えば古江彩佳プロも、同じ力感、同じリズムで14本を使いこなす選手です。
大事なのは、力を入れる所と抜く所を意識すること。腹圧を高めて、肩から先は完全脱力して振ることが重要です。
そうは言っても完全脱力は難しいものです。そこで僕はまず目を閉じてボールを打たせます。どこに飛んでも構いません。やがて慣れて上手く打てるようになると、飛距離もヘッドスピードも上がってくるのです。
その次の段階がスリークォーターショットです。それは振り幅を4分の3にしたショットではありません。フルショットと同じ振り幅で、飛距離を4分の3に抑えたショットです。ドライバーで200ヤードなら150ヤードで構いません。100ヤードの9番アイアンなら75ヤードで構いません。1スイングを5秒で振る、そんな意識でいいのではないでしょうか。
そのうちスイングの角も取れ、ボールがフェースに乗る感覚、ボールをひと押しする感覚なども身に付き、理想的な動きとともにヘッドスピードと飛距離のアップにもつながるはずです。
当時、不調に見舞われた宮里プロが、1スイングを20秒かけて行う素振りをしていたのを雑誌で見たことがあります。ゆっくり振る感覚を呼び起こす練習だったのでしょう。やがてスランプを脱出し、その後のアメリカでの活躍につながったと僕は信じています。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。2025年は千田萌花と藤本愛菜をプロテスト合格に導いた。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』910号より抜粋し、加筆・修正しています
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