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フェード、長尺パター、そしてノールックパッティング 日本一になった堀琴音が感謝する森守洋コーチの“再生術”

どん底から復活した29歳・堀琴音。森守洋コーチとの二人三脚で日本タイトルをつかみとった。

所属 ライター
臼杵孝志 / Takashi Usuki

配信日時:2025年10月6日 12時15分

森守洋コーチ(左)とカップを掲げる堀琴音
森守洋コーチ(左)とカップを掲げる堀琴音 (撮影:福田文平)

<日本女子オープン 最終日◇5日◇チェリーヒルズゴルフクラブ(兵庫県)◇6616ヤード・パー72>

堀琴音がプロ12年目で女子ゴルファー日本一の座に上り詰めた。アマチュア時代も含めて12度目の出場だった「日本女子オープン」。単独首位から出た最終日は5バーディ・1ボギーの「68」で回り、トータル19アンダーで鮮やかに逃げ切った。優勝に向けて大きく前進したのは16番パー4。「65」の猛追ですでにホールアウトしていた佐久間朱莉に2打差をつける千金のバーディだった。

【写真】これが堀琴音の代名詞“ノールックパッティング”

「16番で姿が見えたんです。来てもらえるなんてまったく聞いていなかったし、絶対に来ないと思っていた。もっと頑張らなくちゃと思って、バーディが取れたのかな」

優勝争いの終盤に大きな力をもらったのが、2019年シーズンの途中から師事する森守洋コーチだ。シード3年目の18年は34試合に出て、27度の予選落ちに、2度の途中棄権。制御不能に陥ったドライバーショットがすべてのクラブに伝染し、賞金ランクは114位に急降下した。QTにも失敗し、19年は10試合の出場に終わった。ワラにもすがる思いで駆け込んだのが、ツアー通算2勝の原江里菜に紹介された森コーチだった。

「森さんは本当に大きな存在です。初めてレッスンを受けたときに『イップスじゃないよ』と言われたことは、今でもすごく覚えている。正直言うと、最初のころから教えてもらっていることが理解できなかった。でも、森さんの周りは活気にあふれていて、森さん、江里菜さんといると自分もポジティブになれたんです」

再生の道はまず球筋を変えることから始まった。持ち球のドローをフェードに。だが、森コーチの提案を堀は頑なに拒み続けた。コロナ禍で21年と統合された20年は3試合に出て、すべて予選落ち。転機が訪れたのは、森コーチがキャディを務めた21年初戦の「ダイキンオーキッドレディス」だった。

初日のスタートホールの10番パー4。ティショットはOBゾーンに向かって、大きく右に曲がった。「暫定球を打つときに、こっちゃん(堀)が僕に言ったんです。『フェードにします』って。びっくりしました。そこからずっとフェードですよ」(森コーチ)。10番はダブルボギーとしたが、続く11番パー5ではイーグルを奪った。19年「スタジオアリス女子オープン」以来となる予選通過も果たし、復活ロードが始まった。

今や堀の代名詞ともなっている長尺パターは、23年のシーズン途中に初めて握った。提案したのは森コーチがネットオークションで落札した長尺を22年から愛用する原だった。21年にはツアー初優勝、翌年には2勝目を挙げた堀だが、悩めるパットはクロスハンド、クロウグリップに変えても改善しなかった。長尺に変えたことでグリーン上のパフォーマンスは向上したが、しばらくするとまたスムーズに体が動かなくなった。昨年のシーズン途中に森コーチにSOS。そして、あの“ノールックパッティング”が生まれた。

「あれはドリルの一つなんです。ボールを見ないで、打つときはカップを見る。そこからパッティングを直していくわけです。『森さん、手が動きません』というので教えてみたら、そのまま試合でもやっている。びっくりです」(森コーチ)

あくまで練習法だったノールック。それを実戦配備し、自分のモノにした。唯一無二のスタイルでつかんだ日本一のタイトル。晴れやかな表情で優勝トロフィを掲げる堀を見つめていた森コーチの目には、涙があふれた。

「フェードにしろと言われたときは、2年くらい無視していた。最初はわけが分からなかったけど、森さんについていって本当に良かった。森さんがいなかったら、このタイトルは絶対に取れなかったし、初優勝も2勝目もなかった。森さんと、江里菜さんには感謝しかないです」

ゴルフを辞める覚悟もしていた。極度のスランプがあったからこそ、新しい出会いがあり、今がある。人生、何が幸いするか分からない。(文・臼杵孝志)

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