落ち着いたトーンでまとめられたロジャー・クリーブランドの自宅。広めのバックヤードには自身が手がけたウェッジやアイアンの試作品、そして愛用してきた古めのゴルフクラブが整然と並べられていた。その中にはいわゆる名器と称される“クラシッククラブ”の数々もあった。
12歳でゴルフを始め、南カリフォルニアでプロとしても活動していたロジャーにとって、それらは単なるコレクターズアイテムではなく、良いスコアで回るために必要な「ゴルフ道具」のお手本のようなものだった。ロジャーは特許書類などにも目を通し、優れたゴルフクラブの美しいシェイプに込められたデザイナーの意図を学び取っていった。
1980年代、ツアーの会場では今のようにゴルフメーカーの手厚いツアーサービスはなく、多くのプレーヤーは当たり前に自分でロフトやネックを曲げて調整していた。なかでもウェッジは、現在のようなグラインドオプションは存在せず、試合で長く使用することで各人のプレースタイルにあったソール形状に摩耗し、いい塩梅に育つの待つスタイル。しかし、ソールがこなれた頃にはフェースの溝は窪むほど擦り減ってしまい、一貫したバックスピンなど望むべくもなかった。それでも、プロたちは手に馴染んだウェッジを手放そうとはしなかった。80年代に入っても58年〜62年製の「ウイルソン・ダイナパワー」や「スポルディング・トップフライト」をキャディバッグに入れ続けたのだ。
そんな80年代、ロジャーが試合会場に出かけるとピーター・トムソン、デーブ・ストックトンなど旧知のプロ仲間が次々と声をかけてきた。ロジャーにウェッジのチューンアップを依頼するためだ。ゴルフクラブに造詣が深く手先も器用だったロジャーを頼ってプロ仲間が集まった。彼らはロジャーが制作したテストクラブを打ちながら、ウェッジ談義を重ね、ロジャーはプロたちの願いを集約したような理想のウェッジを完成させていく。85年に「クリーブランドクラシック485」が完成。その3年後には現在のツアーウェッジのマスターモデルとなる「ツアーアクション588」が出来上がった。
「ツアーアクション588」の登場で、プロたちは大事に使ってきた溝の擦り減ったクラシックウェッジをようやく手放すことができた。一人ではなく、数多くのプロの声を集めて完成した「ツアーアクション588」は、トッププロの最大公約数を満たすツアーウェッジのマスターモデルとして認知されていったのだ。
【ロジャーの仕事① プレーヤーの声に耳を傾ける】
ロジャーはとにかくプレーヤーとの会話を大切にしている。そのプレーヤーが何に悩み、何を解決したいと思っているのかを正確に理解することが、その後の加工内容、あるいは新しいウェッジ開発の方向性を決めるスタートラインになることを知っているからだ。
【ロジャーの仕事② ニーズを満たすシェイプを描く】
プレーヤーとの対話から汲み取ったウェッジのイメージをスケッチブックに描き、ウェッジ全体のシェイプを決めていく。そして、実際のウェッジヘッドを削っていき、そのシェイプを具現化したマスターモデルを作成する。
【ロジャーの仕事③ プレーヤーの眼でゴルフクラブを見る】
ロジャー・クリーブランドがウェッジデザインのカリスマとなり得た最大の理由が、その眼力。それはプレーヤーニーズを満たすための方法論(シェイプ)を見出すだけでなく、最終的には各プレーヤーの「眼」で出来上がったウェッジを見ることができる特別な才能だ。ある時、ロジャーは言った。「日本のゴルファー向けのモデルを作る時は、日本のゴルファーの眼になってクラブを見ます。そうでなければ決して喜んでもらえる道具にはならないでしょ?」と。
ロジャーは96年からキャロウェイゴルフに招聘されているが、当時の開発総責任者リチャード・C・ヘルムステッターは、その理由について次のように話していた。
「当時のキャロウェイゴルフには先進的なアイデアをゴルフクラブとしてまとめるデザイン力、つまりゴルファーとして客観的にゴルフクラブを見つめる眼がなかった。我々はロジャーにキャロウェイゴルフの眼になってくれるよう頼んだのです」。
一般にはツアーウェッジのマスターモデルを生み出した“ゴッドハンド(神の手)”として注目されるロジャーだが、やはり傑出しているのはモノの本質を見抜く眼力なのである。ロジャーはその耳で対象となるプレーヤーの悩みを聞き、その手でシェイプを描き、削り、最後はプレーヤーの眼となって、最良のクラブを生み出し提案し続けてきた。
そのロジャーが2025年、30年ぶりに自らが創業したクリーブランドゴルフに帰ってきた。本誌は来日したロジャーを直撃。カリスマの「眼」がとらえているウェッジデザインの現在地点と未来への展望を聞いてみた。
【ロジャー・クリーブランドが見ているゴルフの今、そして未来】
Q.「TA588」をデザインした80年代後半と現在のツアーでは、どのようにプレースタイルが変わっているでしょうか?
「少し前までのプレーヤーにはフィル・ミケルソンに代表されるような、テクニックでアグレッシブにカップを狙っていくタイプがいましたよね。そう、それがリスキーな選択であってもそれを成功させるだけの特別な技術を持ったプレーヤーがいたのです。今はどちらかというと、なるべくリスクの少ない選択をするプレーヤーが多いように思いますね。それは決してテクニックがないという意味ではなく、アプローチを成功に導くメソッドが確立されているからだと思っています。優れたショートゲーム専門のコーチもいます。何より現在のプレーヤーは結果が出ている最新のアプローチスタイルをすぐに取り入れ、自分のものにするセンスを持っているのです」
Q.変化しているアプローチスタイルにウェッジデザインはどう対応する?
「ツアープレーヤーのアプローチスタイルがある意味で画一的になっている背景には、ウェッジクラブの進化も大きく関係しているのです。クリーブランド RTZのように優れたスコアライン(溝)を持ち、画期的なフェーステクスチャーによって強烈なバックスピンがかけられるウェッジが登場。かつてのようにボールを高く上げなくても、スピンでボールをしっかり止めることができるのです。デザイン的にはこうしたプレースタイルの変化によってリーディングエッジの丸みがやや弱くするなどの変化も実際に起きています。しかし、最も大切なのはプレーヤーとライ・コンディション、そしてウェッジのバウンスの最適な関係性を提供していくことにあります。その基本は80年代も今も変わらないと思います」
Q.ウェッジデザインは「TA588」から変わっていないという見方もありますが。
「ヘッド形状だけを見ればそれほど大きな変化はないといえます。しかし、Z-ALLOYのような新素材が登場したことによって、ウェッジにおける重心設計の自由度は飛躍的にアップしています。同じ形に見えても各ロフトで重心位置がより最適化され、それが一貫性の高いスピンや打ち出しを実現しているのです。今はもうS25C(鍛造)か8620(鋳造)かという時代ではありません。40年、50年起きていなかったウェッジの大きな進化がZ-ALLOYによって生まれようとしている。これは本当に楽しみなことです」
Q.最後に今後のウェッジデザインについてお聞かせください。
「新しい素材や技術によって、クリーブランドはかつてないほどの設計的な自由度をもってウェッジ開発ができるようになっています。今は詳しくは言えませんが、色々な挑戦をしています。その結果、これまでにないウェッジを提案できると思います。ツアープレーヤーを満足させるRTZのようなウェッジだけでなく、アマチュアゴルファーのプレーを助けるモデルも必要です。そして世界各国のゴルフ場に適したソールのバリエーションも考えなくてはいけません。色々なことがZ-ALLOYによって可能になるのです。楽しみでしょう?(笑)」
ロジャー・クリーブランドは正直な人である。ウェッジゲーム上達の秘訣は?と問われると、昔から必ずこう答えている。
「まず信頼できるコーチを見つけレッスンを受けてください。そしてウェッジのソール(バウンス)を適切に活用する方法を理解し身につけてください」。
どんな道具も、正しい使い方をして初めてそのパフォーマンスが最大限に発揮される。インタビューから、今秋にも登場!?と推測されたロジャー監修の新しいウェッジシリーズを心待ちにしつつ、自分の“レベル上げ”も頑張っておきたいところである。
◎画像提供・ダンロップスポーツ ◎撮影・高橋淳司 ◎取材、文・高梨祥明