さまざまなスポーツで活用される「BOA®」がカジュアルシューズに採用
今やゴルフシューズに当たり前のように搭載されるようになった「BOA®」。ラウンドに行けば、ゴルフ場で「ダイヤル」をカチカチと回す音を必ずと言っていいほど耳にする。
「BOA®」は正式には「BOA®フィットシステム」という。靴ヒモの代わりに独自に設計した「ダイヤル」や「レース(※金属から化学繊維までさまざまなタイプがある)」「レースガイド」を搭載し、素早く簡単にシューズのフィット感を調整することができる。
元々はスノーボードブーツ用のシステムとして2001年に誕生した「BOA®フィットシステム」だが、現在はゴルフを始め、さまざまなスポーツ、分野のシューズで活用されている。近年はスキーブーツに採用され、従来品よりも足の痛みがなく、パフォーマンスが上がるとして大きな変革をもたらした。
ゴルフ界では2006年のフットジョイを皮切りに多くのメーカーが「BOA®フィットシステム」を採用。ゴルフショップでは「『BOA®』が付いていないシューズは売れにくい」と言われるほど、ゴルファーの間で定番化している。
最近では、アディダス『STAN SMITH BOA GOLF(スタンスミス ボア ゴルフ)』やニューバランス『574 V4 SL BOA』など、定番スニーカーのデザインを継承したカジュアルラインのゴルフシューズにも「BOA®フィットシステム」が搭載されるようになった。
ここで疑問なのは、運動時のパフォーマンスを上げると言われる「BOA®フィットシステム」をカジュアルシューズに搭載する理由は何なのか、ということだ。今回はスポーツシューフィッターの神谷幸宏と「BOA®フィットシステム」に精通するBOA TECHNOLOGY JAPAN INC.のマーケティングマネージャー・渡辺信吾氏にその理由について聞いてみた。
どんなシューズも「正しいフィット」で履くことが大切
神谷 ツアープロでも「BOA®」を搭載したシューズを使う選手が増えました。私もさまざまなシューズを試しますが、「BOA®」の搭載されたものは、均一かつちょうど良い締まり具合で、長く履いても緩みにくく、性能の高さを感じます。
渡辺 「ダイヤル」や「レース」は日々進化していて、より足当たりの良いものになっています。アディダスの『STAN SMITH BOA GOLF』には『TX6』という化学繊維のレースが採用されています。再生ポリエステルやポリエチレンの繊維で構成され、柔軟性、軽量性、強度に優れています。通常の靴ヒモよりも引っ張り強度が高く、水を含みにくく、泥も付着しにくくなっています。
神谷 「ダイヤル」自体も軽量化されて、どんどん性能が良くなっていますよね。「BOA®」はレースとレースガイドの摩擦係数が低く、さらにクロスポイントを減らせることでシステム全体での摩擦係数が低くなることが特徴で、履き続ける内に足の甲にかかる圧が分散して均一になります。足の形に合わせてシューズがフィットする感覚で、すごく気持ちいいんです。
渡辺 「BOA®フィットシステム」では、最初「ダイヤル」の近くが締まって圧がかかりますが、次第に緩い方に圧が分散していく構造になっています。おっしゃる通り足の形に合ったフィット感を得ることができるのです。中足部からカカトにかけて、シューズのヒールポケットに押し付けるように圧がかかりますので、足首をホールドしながら、指がしっかり動いてくれます。
神谷 ゴルフのスイングではツマ先側で地面を蹴りますので、足指がフリーなのは絶対有利ですね。スイング中の足圧を計測できる「スイングカタリスト」でデータを取ると、合わないシューズを履いている場合は地面に正しく圧をかけることができません。シューズの中で足がズレることで痛みが出たり、ひどい場合はケガにつながる危険もあります。
渡辺 シューズを正しいフィットで履くのは、パフォーマンスを出すための大前提。「BOA®フィットシステム」は足が本来持っているパフォーマンスを出すために非常に有効です。最近では足の甲を覆うようなラップ構造によって、足とシューズが一体化するようなものに進化しています。
神谷 シューズを変えるだけで、スイング中の足圧のかけ方が矯正された例もあります。シューズのフィットを考えることは本当に大切です。ゴルフにおいてはスイングそのものを変える可能性がありますよ。
日常で履くカジュアルシューズこそフィット感を重視したい
神谷 今回『STAN SMITH BOA GOLF』のようなカジュアルラインのシューズに「BOA®」が搭載されたのはすごく良いことです。シューズがしっかり足にフィットすることで、歩行動作がスムーズになりますし、足も疲れにくくなるからです。合わないシューズを履いているとちょっとした段差でつまずいたりしますし、普段使いするモノだからこそ、正しく足にフィットすることを大事にしてほしいです。
渡辺 デザイン性を残しながら、パフォーマンスを上げるという意味で「BOA®」が役に立っていますね。足へのフィット感が高まることはもちろん状況に応じて締め付け具合を変えることもできますので、さまざまなシーンで活用できるはずです。
神谷 『STAN SMITH BOA GOLF』はしっかりした素材が使われていて、適度な重みがあるので履いていて安心感があります。シュータンの下に「BOA®」を隠して、デザイン性を重視しているのも好印象です。そして、シュータン部分がしっかりしているので、「BOA®」を少し締めるだけでフィットして、足がズレません。アウトソールがフラットで、地面が感じやすいこともメリットと言えるでしょう。普段履きしつつ、練習場でそのままボールを打てるのはかなり魅力的です。
渡辺 「BOA®」では製品を提供するだけでなく、開発チーム同士でやり取りを繰り返して、シューズの性能を追求します。アディダスやニューバランスなど、メーカーの方がそのシューズで目指す性能がどんなもので、それを達成するには「BOA®」をどう活用するべきなのか。それぞれの知見を合わせることで性能の高いシューズが完成するわけです。
神谷 ニューバランスの『574 V4 SL BOA』もデザインを損なわずにしっかりとゴルフシューズらしい性能を備えていますよね。カカト部分に安定感があって、自分の足がしっかりはまる感覚があります。インソールやアッパーが柔らかくフィットしてくれて、足当たりが抜群に良いです。アウトソールのグリップ力も高いですし、これなら普段履きだけでなく、ラウンドでも使えそうです。
渡辺 「BOA®」があることで、足にフィットしつつも適度な「遊び」が生まれます。シューズが足に追随するように動いてくれて、フリーに動かせるような状態です。カジュアルなシューズでも快適性が高まり、運動時のパフォーマンスが上がってくれます。
神谷 足をガチガチに固めるのとは違った他にはない一体感が「BOA®」にはあります。好みの締め具合に調整できて、脱着も容易です。普段履きするカジュアルなシューズであってもこれは大きなメリット。ぜひ多くの人に「BOA®」の魅力を体感してほしいですね。
取材協力/越谷ゴルフリンクスプライベートスタジオ 撮影/田中宏幸 構成/田辺直喜