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全英覇者の山下美夢有が北海道で過ごした“激動の一週間” その裏にあった家族への想いと強行出場のワケ【現地記者コラム】

山下美夢有の凱旋試合の裏に隠された家族の話。さらに強行日程に挑んだ理由とは?

所属 ALBA Net編集部
高木 彩音 / Ayane Takagi

配信日時:2025年8月13日 14時30分

山下美夢有は妹・蘭さん(右)との姉妹タッグで戦った
山下美夢有は妹・蘭さん(右)との姉妹タッグで戦った (撮影:米山聡明)

先週の国内女子ツアー「北海道meijiカップ」は、今季のこれまでの試合と比べても、大会関係者や報道陣も含めて会場の雰囲気が一味違っていたように感じた。その理由は、今大会前の7月31日〜8月3日に行われた海外女子メジャー「AIG女子オープン」で米ツアー初優勝を成し遂げた山下美夢有が出場していたからだ。この“凱旋試合”は、山下にとっても激動の一週間だったはずだ。

【写真】河本結のドライバー痕はこうなっていた!

その特別な試合でキャディには妹の蘭さんを起用。昨年の「アクサレディス」(悪天候で最終日中止)以来のタッグで挑んだ。大会前には「妹もやりたいと言ってくれて。これまで2回やってもらったけど、私が体調不良だったり、天候で中止になったりして、最終日まで一緒に戦えたことがなかった。だから今回は“3度目の正直”という気持ちで、一緒に頑張りたい」と意気込みを語っていた。当然、目標は凱旋V。2日目、最終日には両親も会場に姿を見せ、家族一丸で戦う姿を日本のファンに見せた。

山下美夢有は妹・蘭さん(右)との姉妹タッグで挑んだ

山下美夢有は妹・蘭さん(右)との姉妹タッグで挑んだ (撮影:米山聡明)

凱旋の一週間は、5日(火)の成田空港到着から始まった。午前11時頃にゲートに現れると、待ち構えていたファンから拍手やかけ声で祝福され、そのまま報道陣の取材に臨む。さらに午後には、日本記者クラブで会見。帰国直後から約1時間にわたり、集まった記者たちの質問に答え続けた。日本記者クラブは、1969年設立以来、海外の首脳や日本の著名政治家、イチロー氏や大谷翔平選手といった“時の人物”が会見する場。ゴルフ界からは渋野日向子以来の招待で、山下は「すごい名誉なことでありがたい。私がここに座っているのが不思議」と心境を述べている。

そのよろこびの声をメディアを通じて日本のファンに届けると、6日(水)の夜便で北海道入り。翌午前7時前には会場入りしてプロアマ戦に出場した。朝の練習場では、クラブやシャフトメーカーのツアー担当や報道陣から祝福され、山下は「ありがとうございます」と照れくさそうに応じていた。

会場には笑顔で登場した

会場には笑顔で登場した (撮影:米山聡明)

森口祐子も山下美夢有を祝福した

森口祐子も山下美夢有を祝福した (撮影:米山聡明)

この大会は山下にとって初出場の試合だった。2019年のプロ入り後、20、21年は大会が開催されず、22~24年は全英出場の関係で不参加。だが練習ラウンドはプロアマのみで、ほぼ“ぶっつけ本番”の状態。そのなかで初日から「70」、「70」、「69」と3日間すべてアンダーパーを並べた。最終日には前半だけで4つスコアを伸ばして一時は単独首位に立つ場面もあったが、終盤で河本結のイーグルもあり2打届かず。凱旋Vはならなかったが、それでも会場を大いに沸かせた。

山下美夢有の応援をするファンの姿があたたかい

山下美夢有の応援をするファンの姿があたたかい (撮影:米山聡明)

この大会での優勝へ、思いは強かった。英国から日本に渡っての連戦でも、それを言い訳にすることもなかった。2日目を終えたあとは、トップとの5打差を逆転するために、他の選手が帰っても、父でコーチの勝臣さん、蘭さん(奈良育英高3年)らが見守る中、遅くまで練習場に残り打ち込む姿を見ることができた。そして、蘭さんに「あした、絶対に優勝するから」と宣言。その一言で、自分を奮い立たせているようにも感じた。

全英で勝った後、何度も「みんなに支えられてここまで来た」など、周囲への感謝の想いを口にしてきた。そして、冒頭に記した記者クラブの会見では、「きょうだいが3人いて、ずっと一緒に練習してきた。私は試合でいないことも多かったけど、弟と妹がサポートしてくれた。迷惑をかけてしまった部分もあった」と話し、涙をこぼす場面も。「弟と妹は私のことをすごい考えてくれて、一番近くで支えてくれる。今回優勝できて良かったですし、弟にも頑張って欲しい」。そんな想いがどんな時でもこぼれてくる。

妹への“優勝宣言”があったことを聞いたとき、私は鳥肌が立った。決意表明は簡単にできるものではない。“気負わないように”と自身への過剰なプレッシャーを避けるために断言を避ける人も少なくない。筆者自身もその一人だと感じるからだ。トップに立つ選手は常に上しか見ていない。それに加えて、家族をよろこばせたい、恩返しをしたい、という想いの強さを感じた。著者もその姿に感化され、大会後、親に連絡したほどだ。

最終日は優勝争いを演じ、ファンを大いに盛り上げた

最終日は優勝争いを演じ、ファンを大いに盛り上げた (撮影:米山聡明)

山下は2019年のプロ入りから日本ツアー通算13勝をマーク。2季連続で“年間女王”に輝き、24年に米ツアーの出場権をかけたQシリーズ(最終予選)に出て1位で通過。米ツアー初参戦の今季は“全英制覇”を含むトップ10入り6回で、世界ランキングでは自身最上位となる6位まで順位を上げている。

日本ツアーは、ここが今季初めての出場だった。その背景には、国際ツアー登録者の山下には7試合の出場義務があり、クリアできなければ来季のシードを失うという事情もあった。義務試合に入る海外メジャーには5試合すべて出場し、4日付の女子世界ランキング(6位)により出場が決まった2年に一度開催される10月の女子国別対抗戦の「ハンファ・ライフプラス インターナショナル・クラウン」もそこに加算されるため、今大会の1試合で出場義務試合数に到達することになるのだ。

さらに、英国での活躍でメルセデス・ランキングで2位にランクイン。2022、23年の年間女王に輝いたことで得た複数年シードの権利は保持したままで、来季のシードを確定させた。これで、米ツアーの後半戦にも集中できる土台を築いた。

「ひさしぶりの日本ツアーで、めちゃくちゃたくさんのギャラリーから応援していただきました。優勝を目指していたので、そこは悔しいですけど、切り替えて海外の試合でしっかり上位争いができるようにしたい」。次戦は今月28日(木)から開催される米ツアー「FM選手権」(TPCボストン/マサチューセッツ州)を予定。それまでの2週間は日本で過ごし、世界の舞台へと戻っていく。山下の“世界1位”への挑戦が本格的に幕を開けた。そう感じる一週間でもあった。(文・高木彩音)

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