海外女子メジャー「AIG女子オープン」(全英女子)の翌週に行われた日本ツアー「北海道meijiカップ」は、桑木志帆による日本勢7人目のメジャー制覇の余韻に包まれていた。もちろん、その快挙を称えるのは当然だ。ただ、同じツアーで戦う選手たちには、「すごい」「おめでとう」だけではない感情があってもいい。むしろ「自分も勝ちたい」「負けていられない」と、悔しさをむき出しにする選手がいたっていい。そんなことを考えながら、筆者は選手たちの言葉を聞いた。
昨年は山下美夢有が全英女子を制しているが、桑木の勝利とは少し意味合いが異なる。米国女子ツアーに参戦してのメジャー制覇だった山下に対し、桑木はスポット参戦での優勝。年間女王争いという視点から見ても、日本ツアーで戦う選手たちへの影響は大きい。
桑木は「資生堂・JAL レディス」終了時点でメルセデス・ランキングの首位に立っていた。その時点ではまだ僅差だったが、全英女子優勝で800ポイント(pt)を獲得したことで状況は大きく変化した。800ptは国内公式戦の優勝ポイントの倍にあたり、女王レースで俄然有利な立場になった。今大会終了時点で桑木が2077.05(pt)なのに対し、2位の菅楓華は1317.67ポイント(pt)と、その差は759.38(pt)にまで開いた。
こうしたポイント差も含め、日本ツアーで戦う選手たちが思うところは大きいはずだ。
今年は年間女王を明確な目標としてきた河本結は、タイトル獲得へ腰を据えるため、出場権を持ちながら全英女子をスキップした。結果的にライバルが海外メジャーを制したことで、女王争いという意味では差を広げられる形になった。それでも「(女王争いで桑木が)抜けちゃったという感覚はありますが、それよりゴルフという競技を通じて刺激をもらいました」と勝者を称えた。
女王レースについては、「一つ一つの状況に気分を持って行かれないように、自分のやるべきことをやっていく」と、置かれた状況を受け入れている。
現在ランキング2位につける菅もこう話す。「できることは限られている。自分の課題を一つ一つクリア出来たらチャンスはあると思うので、諦めずに頑張りたい」。
こうしたコメントから、選手たちの内に秘めた感情までは読み取れない。一方で、今回の状況に対してリアルな声を漏らした選手がいた。それが昨年の女王、佐久間朱莉だった。
取材では笑顔で記者とのキャッチボールを交わしていたが、桑木の優勝について問われると、どこか表情が曇ったようにも見えた。
桑木とは同学年で、プロ入りも同期。ともに93期生にあたる。「すごくうれしかったですし、おめでとうと思った」。仲間の勝利をたたえながらも、一呼吸置くと本音も吐露した。
「それ以上に悔しい。自分も戦えるはずなのに、全然戦えなかった」
桑木の快挙に対して、ここまではっきりと悔しさをあらわにした選手はいなかった。同期が優勝を挙げる一方で、自身は予選落ちで帰国。簡単にはこの結果を受け入れられなかったのだろう。
ただ、多くの選手から“優等生”的なコメントが並ぶなか、筆者はこうした佐久間の発言に、どこかうれしさを感じた。もちろん、同じ日本人として桑木の勝利を喜ぶのは自然なことだ。それでも勝負の世界である以上、「私だって」と、もっと悔しさや闘志を表に出してもいいと思う。
今のツアーを見ても、『誰かを出し抜いてでも一番になる』。そんな気概を前面に出す選手は、そう多くない。それだけに、佐久間の負けん気には、やはり女王に上り詰めた選手だと感じさせるものがあった。そして、素直に感情を出せることもまた、ひとつの強さなのだと思う。
桑木の勝利は、多くの選手を刺激した。もちろん、その快挙を称えることはすばらしい。だが、その一方で「なにくそ」と奮い立つような熱い選手が、もっといてもいい。涼しい札幌国際カントリークラブ 島松コースで、そんなことを強く感じた。(文・齊藤啓介)
