今年6月、秋田県にあるゴルフ練習場「秋田グリーンヒル」で、悠々と歩くクマの姿が捉えられた。地元のAKT秋田テレビが報じた映像には、練習場の打席から250ヤードほど先を移動し、落ちてきたゴルフボールに目をやるクマの様子が映っている。
当時、打席では約40人が練習中だったが、クマが打席に向かってくることはなく、そのまま奥を横切って去っていったという。同練習場に取材を試みたが、「この件に関してはお答えできません」とのことだった(メディアからの問い合わせが殺到しているとみられる)。
Googleマップで確認すると、同練習場は秋田駅から北へ約6kmと比較的市街地に近いが、奥が山に面していることも影響しているのかもしれない。
全日本ゴルフ練習場連盟(JGRA)は、「ほかの練習場でクマが出たとの情報は今のところありませんが、会員の注意を促す意味で情報は共有しました」と話す。
これまでクマといえば深い山の中という印象が強かったが、市街地に近い練習場や、栃木県宇都宮市の繁華街にまで出没するようになった。人の生活圏とクマの生息圏の境界線が崩れつつある現状を象徴する出来事といえる。
■出没数は前年比1.8倍! 九州・沖縄などを除き「全国どこでも遭遇」の危機
この実態はデータにも顕著に表れている。環境省が発表した「クマに関する各種情報・取組」によると、今年5月の全国のクマ出没情報は4,551件に上り、昨年の2,528件から約1.8倍に急増している。6月末までの人身被害も40件に達した。
県別で最も多かったのは岩手(934件)、次いで秋田(843件)、宮城(311件)。出没数を公表していない北海道や、そもそもクマが生息していない九州・沖縄の8県、そして出没0件だった5県(茨城、千葉、香川、愛媛、高知)を除けば、ゴルファーは全国どこでもクマと遭遇し得る時代になったといっても過言ではない。
■トーナメントではドローンで監視、大手ゴルフ場もガイドラインを策定
昨年、プロアマ開催日にコース内でクマが目撃された「明治安田レディス」(宮城・仙台クラシックゴルフ倶楽部)では、プロアマと初日の競技が中止となり、3日間54ホールへの短縮&無観客開催という異例の事態となった。
これを受け、今年は対策を大幅に強化。約130万円の産業用小型ドローンで朝夕に上空からコース周辺を監視したほか、1本1万円超のクマ撃退スプレーを50本配備するなど徹底した対策を講じ、無事に4日間の有観客開催をやり遂げた。
一般営業のコースでも対策が急ピッチで進んでいる。兵庫県の「PGM武庫ノ台ゴルフコース」では、6月にクマの目撃情報を公式HPに掲載。親会社である平和の広報担当者によると、「平和グループ(PGM、アコーディア・ゴルフ)のゴルフ場においては、グループ統一のガイドラインを策定しており、場内や近隣にてクマの目撃や出没情報があった場合にはガイドラインに沿って対応しています。また、目撃情報については、場内・近隣での目撃が武庫ノ台GC以外にも数件発生しております」とし、武庫ノ台GCでは具体的に以下のような安全対策を実施している。
・熊の目撃情報や痕跡を確認時、場内アナウンス・掲示による迅速な情報共有。
・朝夕の巡回パトロールおよび自治体等からの情報収集の強化。
・巡回パトロール係やコース管理スタッフの体制強化。クマ撃退スプレーなどを配備。
・爆竹や花火などを活用した進入防止策の検討。
・動物進入防止柵の設置。
・安全確保のため、危険時のプレー中断措置。
同コースでは安全のため、6月12日からナイトゴルフを中止していたが、6月19日から再開。クマ対策として、朝夕の巡回パトロールの強化、乗用カートへのクマ鈴およびクマ撃退スプレーの配置を実施している。
日本ゴルフ場経営者協会(NGK)によると、「ゴルフ場でクマが目撃されたとの統計は取っていませんが、ゴルフ場での目撃情報は多くなってきています。クマよけスプレーを購入できないかのとの問い合わせも来ています」と話す。従来イノシシ対策として設置されていた電気柵が、期せずしてクマ対策としても機能しているケースも多い。
■「風向き」の前に「クマの有無」を確認する時代へ
ティショットの前に風向きを気にするように、これからはコース上にクマが潜んでいないかを確認する――。
そんな冗談のような話が、いまや現実になりつつある。大好きなゴルフを安全に楽しむためにも、ゴルフ場や練習場だけでなく、ゴルファー一人ひとりが「クマ対策」を新たなプレーマナー・常識として身につける時代が来ているのかもしれない。(取材・文/嶋崎平人)
