近年、ルームウェアや睡眠時専用の「リカバリーウェア」が、SNSや店頭で大きな注目を集めている。安価なものから専門ブランドまで選択肢も増えているが、そもそもなぜ今、これほどまでに疲労回復への関心が高まっているのだろうか。そこには、現代人が抱える特有の疲れと、シニア層のゴルファーが特に意識すべきリカバリーの重要性がある。ヨガや心身の健康を研究する井上留美子先生の見解を交えながら、その理由を紐解いていく。
■現代人が「脳の疲労」を溜め込みやすい背景
巷でリカバリーウェアに注目が集まる最大の背景として、現代人ならではの「情報の多さ」が挙げられる。スマートフォンを肌身離さず持ち歩き、常に何かしらの情報をキャッチして処理し続けている現代人は、たとえリラックスしているつもりでも、脳は休まる暇がない。
現代人が疲労を溜めやすい環境について、井上先生はこう指摘する。
「今は非常に多くの情報が溢れているため、脳が常に何かを考え、情報処理に追われ続けている状態にあります。リラックスしている時間でさえ、スマートフォンを見て情報をキャッチしてしまうなど、休まる暇がないことが問題視されているのです。また人間関係においても、『すぐに返信をしなければいけない』といったプレッシャーや、『何時以降は業務連絡を控えるべき』といった過剰なルールによる気疲れも増えています。現代人は、日常的に考えなければならない事柄が多すぎるのではないでしょうか」
現代人の疲れは、単なる身体的なものだけでなく、こうした過剰な脳活動からくる「脳の疲労」が主因になっているのだ。
■ゴルフは「交感神経」が優位になりやすいスポーツ
この現代人特有の脳の疲れは、ゴルファーにとっても例外ではない。緑豊かな自然の中でプレーするゴルフは一見、最高のストレス解消法のように思えるが、実はメンタル面で脳を酷使しやすいスポーツという側面も併せ持っている。
「ゴルフは『ミスのスポーツ』と言われるように、上手くいかないかもしれないという不安を抱えながら、一喜一憂を繰り返すプレッシャーがあります。このように精神的に己との勝負を続けることで、自律神経の『交感神経』が優位な興奮状態が続いてしまうのです。本来であれば、帰宅後はリラックスを司る『副交感神経』へと上手にスイッチを切り替えるべきなのですが、仕事でもゴルフでも緊張状態を維持し続けている現代人は、この自律神経の切り替えが苦手な方が多いように見受けられます」
渋滞を心配しながらのゴルフ場までの往復運転によるストレスや、ビジネスの延長線上にある人間関係などが重なれば、心身の緊張はさらに高まる。興奮状態(交感神経優位)のまま夜を迎えてしまうため、しっかり眠れず、疲れを翌日へと持ち越してしまうゴルファーが後を絶たないのが現状だ。
■疲労が蓄積し続けると、体にはどんな不調が出るのか
もし、この疲労を解消せずに溜め込み、慢性化させてしまうと、体には様々な危険信号が現れ始める。
「医学的な観点からお話ししますと、脳が常に緊迫状態にあることで血管が収縮し、血流の悪化や血圧の上昇を招いてしまいます。また、自律神経の乱れは消化器系にも影響を及ぼすため、消化不良や便秘といった目に見える不調となって現れることも少なくありません。当然、脳が疲弊していれば、記憶力や仕事の効率といったパフォーマンス全般も著しく低下してしまいます」
さらに、シニア世代のゴルファーにおいては、メンタル面での変化も慢性化の大きなサインとなる。
「疲労が慢性化してくると、活力が低下し、やりたい活動に対してパワーが湧かなくなってしまいます。大好きなゴルフに行くこと自体を『めんどくさい』と感じたり、友人からの誘いに気が乗らなくなったり、プレーをしていても以前ほど楽しく感じられない。こうした心の変化は、シニア層の方々にとって、疲労がかなり蓄積しているか、あるいは体調を崩しているという体からの重要なサインです」
大好きなゴルフに行くのが億劫だと感じたら、それは体や脳からの深刻な危険信号なのだ。
■良質な睡眠のために「自分に合うツール」を頼る選択肢
では、ゴルファー、特に年齢とともに睡眠が浅くなりがちなシニアゴルファーが、翌朝のラウンドに向けて十分な睡眠をとり、プレー後にしっかりリカバリーするためにはどうすればよいのだろうか。
「睡眠の基本は、朝にしっかりと日光を浴び、日中に活動して『睡眠圧(眠気)』を体の中に溜めることです。しかし、年齢を重ねるにつれて日中の活動量が減ってくると、この睡眠圧を上手く溜めにくくなるという側面もあります。そのため、生活リズムを整える努力にプラスして、衣類などの手軽なリカバリーアイテムの力を頼ることは、非常に有効な選択肢の一つになると言えますね」
世間に流通しているリカバリーウェアについて、井上先生は次のように分析している。
「医学的な厳密なエビデンス(データ)という点では、まだこれからの部分もあります。ただ、パジャマやルームウェアとして『身体を締め付けない構造』や『優れた吸汗性』といった服そのものの特徴は、リラックスを促す上で非常に大きい要素だと考えられます。肌触りの良さやサラサラとした心地よさは、心身を緩める手助けをしてくれます。また、『良いものを身につけている』という意識や安心感、いわゆるプラセボ効果も含めて、ご本人が『これは心地いい』と実感できるのであれば、睡眠の質を高めるアプローチとして活用する価値は十分にあると思います」
過酷な環境で戦うゴルファーが元気にプレーを続けるための手段として、リカバリーウェアを生活に優しく取り入れてみる価値は十分にありそうだ。
【解説】
井上留美子先生
日本整形外科学会認定医、認定スポーツ医、認定リハビリ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医などの資格を持つ。整形外科ヨガ事務局代表で、ヨガインストラクターに整形外科理論を教えるなど、幅広い活動を行っている。