戦後、BMWの興隆のきっかけとなったのがノイエ・クラッセ。英語にすると新しいクラスで、そのコンセプトがEVにおいて今新たに提唱され、その第一弾が登場した。それがiX3だ。性能だけでなく、デザインも今までのBMWのイメージから大きく飛躍したものとなっている。その実力のほどはいかなるものか、松任谷正隆氏の評価は?
編集部(以下、編):いやはや、さすがに注目のモデルですね。借りるのに苦労しました。
松任谷(以下、松):なんかイメージと違うなあ……。
編:どういう意味ですか? 何をイメージされていたんでしょうか?
松:あのコンセプトカーだよ。ノイエ・クラッセ。
編:苦労して借りてきたんだから、ネガから入るのやめてもらえませんか?
松:まあねえ。ネガというわけではないんだけど、思いのほか、デザイン言語は断ち切ってないんだなあ、と思ってね。
編:ふうん、僕にはブランニュー感がプンプンですけど。
松:確かに顔とかは大昔に戻ったような顔だよな。ちゃんと鼻の穴になっているし……。でも相変わらずキャラクターラインは濃いし、この角張り方は小さなXMと言ってもいいんじゃないの?
編:そうかなあ。
松:写真ではもっと柔らかいラインに見えたんだよね。でも現実は存在感を誇示しているみたいなアグレッシブなデザインだったよ。
編:どこから見てもBMWじゃないですか?
松:今のBMWね。
編:インテリアとか見てくださいよ。こんなですよ。
松:初代3シリーズの頃からBMWのダッシュボードは最先端を行ってたんだよな。だけど、メーターナセルがディスプレイ化されるようになってからは、なんだかどのモデルも同じになっちゃって、ちょっとなあ、って思ってたんだよ。
編:で、どうですか? これ、最先端に戻りましたか?
松:いや、ちょっと見だけではわからないよね。今や最先端は見た目だけではなくなって、より奥深いよね。とはいえ、このディスプレイの形は何でこんなふうにしたんだろう。使いやすいのかな……。
編:デザインだけでこんなふうにしたりするんでしょうか?
松:昔はセンターコンソールをドライバーの方に向けたりして、機能とデザインの絶妙な融合だったんだよな。
編:まあ、昔の話ですよね。
松:そうだな、メルセデスだってあれほどブラインドタッチができるスイッチこそ正義だなんて言っていたくせに、デザイン優先のスイッチにした時期があったもんなあ。大きな声で言いたくはないけど、それって信奉者への裏切りだろ。
編:まあ使いやすいかどうか、試してみましょうよ。
松:シートはサイドサポートがあんまりないね。
編:そのぶん、乗り降りがしやすいのでは?
松:まあ、コーナーでちゃんとサポートさえしてくれれば何でもいいけどね。
編:このフロントガラス下のダッシュボードとの間に広がる幅いっぱいのディスプレイが圧巻ですね。
松:以前、これに似たディスプレイのクルマもどこかで見たような……。
編:確かにフランス車とかではあったかも。だけど、これほど徹底していたわけじゃないし、ここはAIとのコミュニケーションの入り口ですよ。
松:そう言われるとねえ、このスケキヨみたいなマークはなんだい?
編:AIを画像化したものじゃないですか?
松:へえ、AIってこんな顔してるんだ……。
編:だからあ、ネガばかり言わないで走りましょう。
松:OK、これ、シート調整はメルセデスみたいにドアに付いているのね。
編:そうみたいですね。
松:なんだか質感は、例のクリスタル感ムンムンで、やっぱりちょっと前からの言語を使っている感じだな。それに初代i3をミックスしたような、何とも言えないムードだね。ほらこのスイッチ類のクリック感も直前のBMWだ。
編:そりゃそうですよ。いいものは持ち越すのは当たり前。
■今までの常識を大きく覆す、先進性あふれる走り
松:じゃあ走るぜ。ゴルフバッグは積んだ、と……。
編:抜かりはないです。レッツゴー。
松:ふむふむ。ハンドルの形はずいぶん変わったね。太さは以前とそう変わらないように思うけど、この形になったことで、異様な太さは感じにくくなったね。それに割合重いな。自然な感じはあまりないかな。
編:ふうん、こっちはいい感じですよ。当たり前だけど。
松:あっ、この野郎、パドルがないじゃないか。
編:まあ、電気自動車だから。
松:回生ブレーキの効きの調整スイッチは?
編:わかりません。
松:まったく……こういうところは不親切だ。プンプン。
編:ビギナーには敷居は高いですね。オーナーになれ、ってことです。
松:これさあ、バッテリーをそのまま構造材として使っているんだろ?
編:セルトゥーパックと言っているやつですね。独特の形状にすることによって、直接プラットフォームに取り付けているらしいです。だから剛性も上がり、軽くできる、と。
松:あんまり感じないんですけど。
編:そうですか?
松:まあ、もともとBMWは充分以上の剛性感はあったし、あれより上がったと言われてもなあ。
編:確かにいい感じではありますが、ゴツゴツしてますよね。
松:それはBMWだから仕方ないの。シャキッとしてないBMWなんてちょっと嫌だろ?
編:まあ、硬くはあるけどタイヤの硬さを感じる程度ですかねえ。スポーツカーのようにパネが揺すられる感じはないですもんね。
松:それにしてもさ、この最新のBMWがエアサスじゃなくてコイルバネを使っているのも不思議じゃない?
編:確かに、SDV(編集部注:ソフトウェア・デファインド・ビークル)なんだったらエアサスの方が何かと便利なんですよね?
松:そうだよ、俺のテスラなんてある時急にサスペンションが柔らかくなったんだぜ。
編:そのプログラムをインストールするのに時間はどれくらいかかったんですか?
松:覚えてないけど2時間くらいかなあ。でも自動的にダウンロードされるからあとはインストールボタンを押すだけ、それで乗り心地が変わったり、表示されるものが変わったり、すごい時代だよ。
編:BMWはこの足に自信があったんじゃないですか?
松:少なくとも、このランフラットタイヤ感はなくなってもいいと思うけど。ま、これからエアサス仕様も出てくるとは思うけどね。おっと……。
編:ん? どうしたんですか?
松:いや、これはすごいな、どういう仕組みなんだ?
編:というと?
松:直線ではアクセルから足を離しても回生ブレーキはほとんど効かないんだよ。だけどコーナーが迫ってくるとググッとブレーキが効いて速度を下げるの……。コーナーの途中で効くんじゃなくてコーナーの手前で効くんだよ。
編:ああ、カメラとナビとで道を見ていて適切な速度にするという仕組みですね。
松:これが例のハートオブジョイ?
編:のひとつですかね。
松:ははあ、これならパドル要らないね。それにブレーキペダルに足を乗せることなくどこまでも行けちゃいそうだ。面白い面白い。
編:何でも近い将来、130km/hまでならハンズオフもできるそうですよ。
松:特定の高速道路でね、まあ、それはありがたいよね。ついに渋滞路だけでなく、高速道路130km/hまで行ったか、BMW……。
編:日本では130km/hが許される道路はないです。
松:そりゃそうだ。
編:で、結論としてはどう?
松:まあ、はっきり言って煮詰め足りないところもあるし、伸び代はすごく感じるね。だけどやっぱり新しいよ。新しい発想ゆえの宿命は仕方ないんじゃないか、とさえ思った。あと、俺の嫌いなヘッドアップディスプレイなんだけど、確かに進化していていいとは思う。今度、夜使ってみて邪魔じゃなければ、俺が慣れていくしかないのかなあ。でもカットスイッチも付いているから、これもまだ発展途上なのかもなあ。
BMW iX3 50 xDrive M Sport
◆全長全幅全高:4780×1895×1635mm ◆車両重量:2330kg ◆フロントモーター最高出力:123kW(167ps)/4607rpm ◆フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kg-m)/0-4667rpm ◆リアモーター最高出力:240kW(326ps)/5500rpm ◆リアモーター最大トルク:435N・m(44.4kg-m)/0-5000rpm ◆一充電走行距離(WLTCモード):835km ◆WLTCモード燃費:150Wh/km ◆定員:5人 ◆価格:1034万円
文・写真/松任谷正隆