通算113勝を挙げ、世界ゴルフ殿堂入りも果たした不世出のプロゴルファー・尾崎将司氏。彼のクラブ開発を任されていたのが、マスダゴルフのクラブデザイナー・増田雄二氏だ。今回は増田氏に、尾崎氏が徹底的にこだわっていたクラブ哲学について話を聞いた。
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尾崎氏が使用し、大ヒットとなったパター『WOSS(ウォズ)』。全盛期の尾崎氏のクラブ調整を担当していたのが増田氏で、近年は自身が代表を務めるマスダゴルフのクラブ開発においても、生涯契約という形で尾崎氏からアドバイスを受けてきた。
「ジャンボさんのクラブに対する造形へのこだわりは、他のプロとは比べものにならないほど深かったです。僕がジャンボさんのもとに行くまでは、クラブをご自身で組み立てていました。さまざまな調整を自ら行い、曲げたり削ったりと、『ここまでやるんだ』と思わされるほど徹底していましたね」
尾崎氏がクラブに求めた性能は、彼のプレースタイルと深く関わっていたという。
「ジャンボさんの場合、プレースタイルはティショットで飛ばして、セカンドでピンを攻め、バーディを奪う攻撃的なゴルフ。そのゴルフを演じるために生まれた宿命だったんだと思います。攻撃的なゴルフという“舞台衣装”を着て優勝争いを演じていた。果敢に攻めるプレースタイルだからこそ、クラブも全て攻めるための設計でした。攻めて攻めまくるためのクラブ。守って軽く打つことはない。『強く振って球をつかまえ、遠くに飛ばす。左には行かない』。そういうクラブを、パターにも求めていました」
尾崎氏がパットで大事にしていたのは、タッチを合わせることではなく、球をしっかり叩いてつかまった球を打つこと。無難にまとめるプレースタイルではなかった。
「『WOSS』パターは、もともとL字型が基本です。フェースターンを使って、コロがる球が打てる。つまり、強い球になりやすい。当初は細身のL字ヘッドでしたが、ジャンボさんがパットイップスになった際、L字形状のままマレットタイプを作りました。ただ、大きく違っていたのが、市販モデルよりも明らかにフェースが右を向いている点です。しっかり球をつかまえて打つための設計でした」
尾崎氏は、パットでは左サイドをギュッと締めて構えていたと指摘する。
「左サイドを締めると左腕が外側に回るので、右を向いたフェースをスクエアに戻せる。体の左サイドをギュッと締めているので、そのまま強く打ち抜いても左に行くミスが出ないんです」
増田氏が手がけるマスダゴルフで有名なのが、グースネック形状のウェッジだ。2013年の「つるやオープン」で、尾崎氏がエージシュートの偉業を達成した際に使用していたのが、グースネックが特徴の『スタジオウェッジ M425』だった。なぜ尾崎氏はグースネックを重宝したのだろうか。
「グースネックの方が、当然低く強い球を打ち出して、ギュッとスピンをかけられます。それで止まる球が打ちやすいんです。球を上げ過ぎることがないので、カップインする確率が高くなる。バンカーでも同じです。ジャンボさんは、バンカーでも真っすぐ振ってスピンをかけて寄せます。アプローチでは、入れることしか考えていませんでした。そういう寄せ方はギャラリーが喜びます。観客が楽しんだうえで勝つ。そのために、ジャンボさんは本当に死ぬほど練習していましたし、そういうクラブを求めました」
「僕のクラブの知識や哲学は、すべてジャンボさんから教えてもらったものです」と語る増田氏。その教えを生かし、これからもクラブ作りに邁進していきたいと語っていた。
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