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PINGの開発者に聞く「5年がかり」の意欲作『i540』アイアンの誕生秘話

革新の「インナー・エア」がもたらす、飛び系中空アイアンの完成形!

所属 ALBA Net編集部
ALBA Net編集部 / ALBA Net

配信日時:2026年3月31日 12時00分

PINGの飛び系ブレードの最新作『i540』は、これまでの「飛び」を継承しつつ、全く新しいテクノロジーを内蔵して生まれ変わった。この革新的なアイアンがいかにして誕生したのか。PING本社でアイアン開発の中枢を担うエンジニアの言葉から、その深層を探っていきたい。
 
■ PINGの「顔」を形作るエヴァン・グリアー氏
 
今回、開発の裏側を明かしてくれたのは、PINGでプロダクトデザイン&デザインエンジニアを務めるエヴァン・グリアー氏だ。入社15年というベテランであり、彼が手掛けてきた業務の幅は驚くほど広い。

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「私は主にゴルフクラブの構造設計や3Dデザインを担当しています。単に性能を追求するだけでなく、デザインの見た目の良さ、そしてPINGが最も重んじる耐久性についても責任を負っています。普段は『性能』、『外観』、『耐久性』という、相反しかねない3点をいかに高いレベルで融合させるかに心血を注いでいます」

エヴァンはこれまで、名器と名高い『G30』ドライバーのプロジェクトを例に『G440』アイアンを含めたあらゆるクラブ開発に従事し、最近では『G440K』の開発にも携わってきた。また、2013年頃から日本とアメリカの橋渡し役も長年務め、特にアイアンの美観の引き上げにも尽力してきたとか。
 
■ 5年以上の歳月をかけた「空気」の革命
 
『i540』の最大の特徴はヘッド内部に搭載された【インナー・エア(inR-Air)・インサート】だ。一見すると、現在主流となっている他社の中空構造にも似て見えるが、エヴァン氏はその決定的な違いと開発の経緯を熱く語る。

「『インナー・エア・インサート』は、私たちのイノベーション・グループが5〜6年前から取り組んできたプロジェクトです。実はこれ、靴に使われているテクノロジーから着想を得たものなんです。ある日、エンジニアのひとりが『このクッション技術をゴルフクラブに入れてみたらどうなるだろう?』と思いついたのが始まりでした。そこから長い時間をかけて研究を重ね、まずは昨年の『iDi』という限定的なモデルで形にし、満を持してこの『i540』に投入することに決めたのです」
 
通常、中空アイアンの内部には打音の調整や振動吸収のためのエアフォーム充填剤や、ホットメルト(接着剤)が注入されている。しかし、エヴァン氏によれば、それらは設計上の「足かせ」にもなり得るという。

「この空気のインサートは、以前フェース裏に塗っていたホットメルトの代わりも務めますが、非常に軽いのが特徴です。デザインの観点から見て、このインサートが最初にもたらすメリットはフェース面の軽量化です。これにより、その余剰重量をクラブのより低い位置に再配置することが可能になりました。

また、インナー・エアーの機能は打球音を抑制することでもあり、非常に優れた効果を発揮しています。この余剰重量をヘッドのより深い位置、具体的にはソールのタングステン・ウェイトとして再配置できたことが、設計上の大きなブレイクスルーとなりました」
 
■ 「飛ぶ」だけではない、PINGが譲れない一線
 
ALBA本誌連載「ギア総研」のテストでは、競合他社の同ロフト帯のアイアンと比較した際、『i540』が7〜8ヤードも飛距離で上回るというテスト結果が出た。記者はその「顕著な初速性能とやや低スピン・高打ち出し」に驚いたことを伝えたが、PINGが求めたのは単なる「飛び」ではないと言う。

「削減した重量を低重心化に充てることで、飛距離アップはもちろんですが、それ以上に『最高到達点の高さ』と『優れたストッピングパワー』を両立させることができました。飛び系アイアンであっても、グリーンでしっかり止まらなければ意味がありません。『i500』から始まった飛び系ブレードのカテゴリーですが、モデルチェンジのたびに打音を改善し、高弾道・高スピンを実現するための工夫を重ねてきました。精密な鍛造C300フェースの厚み最適化とインナー・エアの組み合わせが、最高の初速と心地よい打感を生んでいるのです」
 
エヴァンは、PINGのアイアンが「他社と一線を画すポイント」について、誇りを持ってこう付け加える。

「サイズ感やトップレールの厚みといったディテールには個人の好みがあるでしょう。しかし、PINGのアイアンが際立っているのは、どのカテゴリーにおいても『寛容性(やさしさ)』が勝っているという点です。これは私たちの会社の根幹です。飛距離というのは、安定した飛距離であってこそ初めて価値が出る。ミスヒットしても同じように飛ぶ。そのために寛容性を最優先して設計しているのです」
 
■ 過酷なテストが証明する「一生モノ」の耐久性
 
「中空内部に空気の層を作る」という繊細な構造に対し、耐久性を不安視する声もあるかもしれない。記者もその一人で、ランニングシューズの経年劣化を想像した。しかし、PINGが設ける品質基準は、こうした一般人の想像を絶するほど過酷だ。

「いい質問ですね。我々はこのインサートの耐久性には絶対の自信を持っています。合格を出す前に行ったテストの一例を挙げましょう。まず、クラブを約71度まで加熱し、次にマイナス18度くらいまで凍らせます。この過酷な24時間サイクルを5日間繰り返してから、ようやく最初の一発を打つんです。
 
極限状態でのエポキシ樹脂や素材の変質性を確認し、さらに高気圧や低気圧、高地での環境テストも広範に行ってきました。開発開始から製品化までに5年以上というとても長い歳月がかかった理由は、この徹底した検証作業をパスするためでもあったのです」

この空気のインサート自体がボールスピードを直接上げるものではない。が、振動を抑えて打感・打音を最適化しつつ、フェースの薄肉化・低重心化にも寄与する。ヘッド性能を最大限に引き出すための「縁の下の力持ち」として重要な機能を発揮しているのだ。
 
■ 今後もインナー・エア・インサートは広がる!?
 
ツアーで愛される『iDi』と違って、『i540』は決してツアープレーヤーのためだけの特別なクラブではないとエヴァンは言う。しかし、そこにはPINGが培ってきた「誰もがゴルフを楽しめるように」という哲学が凝縮されている。

「実は、PGAツアーでこのタイプのアイアンを使う選手は多くありません。しかし、インナー・エア技術を搭載したモデルは、プロからも『打感だけでなく弾道が揃う』と非常に高く評価されています。『i540』は、一般のユーザーがコースで最も信頼して使える武器になるよう、私たちが持てる技術をすべて注ぎ込みました」

今後もどんどん他製品に採用されていくことが予想されるが、それに関してエヴァンは「残念ながら未来のお話をすることはできません」。だが、記者は『iDi』と『i540』の出来の良さから「きっとインナー・エアの採用が広がるはず」と確信している。(編集部M・K)

◎ 撮影・田中宏幸 ◎ 取材協力・ピンゴルフジャパン

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