2021年以来2度目のドバイ開催となった今大会。その年には中島啓太が優勝を果たし、日本勢として3人目の快挙を成し遂げた。あれから4年。中島は現在DPワールドツアーを主戦場とし、同ツアー優勝を経験するなど、世界の舞台で躍動を続けている。
そんな中島を目標に戦う若きアマチュアも多い。日本勢7人が出場し、小林翔音(日大)や大会で存在感を見せつけた16歳の長崎大星(勇志国際高)もそのひとりだった。先輩たちの偉業に続けと、“若きサムライ”たちは今年もハイレベルな戦いを繰り広げた。
7人のサムライが様々な思いを胸にドバイへと向かった
歴代覇者には松山英樹、金谷拓実、中島が名を連ね、日本人にとって相性のいい大会。今年も出場した全員が4日間を戦い抜いた。
7人のうち4人が初出場だったが、それぞれが今大会への強い想いを胸にプレーした。今年の「トヨタジュニアゴルフワールドカップ」で個人優勝、日本アマで2位の成績を残した長﨑大星(勇志国際高)は、「今年の一番の目標がアジアパシフィック出場」だったと語り、今大会への出場に胸を躍らせていた。
小林匠(大阪学院大)は「まさか出られると思っていなかった」と望外の結果だったが、マスターズ出場を目指し、ゴルフの技術だけでなく、人としての成長も重視してきた。「マスターズに出る資格がある人というのは、普段の練習やゴルフだけでなく、人間的な部分も含めて優れた人だと思っています。だから僕もゴルフだけではなく、勉強も頑張ってきました」。そうキラキラとした目で話す。
ニュージーランドに留学している片野貫一朗(エリム・クリスチャン・カレッジ)はオークランドから17時間のフライトを経てドバイに入った。自身を「飛ばし屋ではない」と評する一方で、ショートゲームに自信をもつ。全長7289ヤードと長いコース設定にも「アプローチとパターでカバーできれば」と攻略への道筋を立てていた。
松山茉生(福井工大付属福井高)は、「松山英樹選手はアジアアマで勝ってマスターズに出場して、10年後にマスターズで優勝というすごいストーリーがある。自分も3選手(歴代日本人覇者)に続いて優勝できるようにしたいです」とオーガスタ行きを強く意識していた。
そして、すでに大会を経験していた3人はまた違った気持ちで臨んだ。隅内雅人(日大)は3度目の挑戦で、過去2大会とも5位に入っていた。好結果を残す一方、「悔しい経験」とも表現する。この大会にかける思いは強く「年始から『この試合に向けて調整している』と言ってきた」と重きを置いていた。
昨年の日本大会で7位に入った小林翔音(しょおん/日大)は、トップ10入りを果たしたものの「悔しい思いをして、いろいろ試行錯誤をしてきた」と、並々ならぬ準備を重ね今大会に挑んでいた。ショットは完全な状態ではないと不安ものぞかせつつ「チャンスはある。諦めずやっていきたい」と、静かなる闘志を燃やしていた。
中野麟太朗(早大)は、ある決意をもってドバイ大会を迎えていた。昨年大会は2日目に首位に立ち、悪天候による順延続きのなかでも上位をキープし優勝争いに加わり続けたが、勝利には届かず3位で終えた。今年は、プロ転向も視野に入れており、「最後のアジアアマ」と位置づけていた。「去年は優勝したかったけど、今年は全力で楽しんでいきたい」。昨年はこの大会の優勝を明確な目標に掲げていたが、1年を経てまた違った心境にも達していたようだ。
優勝という名誉はもちろん、覇者には翌年の「マスターズ」と「全英オープン」への出場権が与えられるこの大会に様々な思いをもって各々が挑んでいた。
初日から日本勢が優勝戦線で戦い続けた
大会初日を終えると、中野と長﨑が日本勢最上位となる4位発進。さらに小林匠が10位と、日本勢の活躍に期待が高まるスタートとなった。
2日目は中野が首位タイに浮上。長﨑も1打差の4位に食らいつき、片野も10位に順位を上げた。松山は体調不良に苦しみながらも踏ん張り、決勝へと駒を進め、7人全員が決勝ラウンド進出を果たした。
そして3日目、長﨑が「65」をマーク。トータル17アンダーまでスコアを伸ばし、2位に5打差をつけて単独首位に浮上した。2位には中野。日本勢がワンツーで最終日を迎える展開となった。この日、片野は自身初となるホールインワンを達成。間違いなく、第3ラウンドは日本勢が話題の中心だった。
ラウンド後、長﨑は中野との戦いについてこう語った。「(中野は)日本人選手を引っ張っていってくれている。そのおかげで自分もついて行こうとラウンドしている」。先輩への敬意を忘れず、5打差を決して安全圏とは考えていなかった。
ワンツーで迎えた最終日。長﨑、中野にとって受け入れ難い結果に…
最終日最終組は、長﨑、中野、そしてタイのフィファ・ラオパックディとのラウンドとなった。優勝はもちろん、翌年の「マスターズ」と「全英オープン」への出場権もかかる。その重みを感じながら、選手たちはコースへと飛び出していった。
優勝本命の長﨑だったが、この日は本来の調子が出なかった。スタートホールからボギーを叩き、その後もなかなか良い流れに乗れない。中野も同様に「いつもの自分の感じではなかった」と話し、ドライバーは好調だったものの、ショートゲームでスコアを作れず、追撃には至らなかった。
伸び悩む2人を尻目に、ラオパックディは後半戦で怒涛の5バーディを奪い、15番ホールを終えた時点でついに長﨑に追いついた。ティショットは安定しなかったものの、ショートゲームと要所で決め切るパットを武器に、淡々とスコアを伸ばしていった。
しかしここから、長﨑も意地を見せた。続く16番でバーディを奪い、再び1打リードで首位の座を奪い返す。1オンも狙える17番でもさらにバーディを奪い、1打リードのまま最終18番パー5へ向かった。
ラオパックディがバーディを決めたが、長﨑も決めれば優勝という約1.5メートルのバーディパットを残した。しかし、この“ウィニングパット”はカップを抜け、勝負はプレーオフまでもつれ込んだ。
18番と17番を交互に繰り返す形式で行われたプレーオフは、3ホールに及ぶ熱戦となった。最終18番では、長﨑の3番ウッドによるセカンドショットが大きく左にそれ、ラフからのアプローチも寄せきれずパー。ラオパックディがバーディを奪い、勝負が決した。
ラウンド後の涙。ドバイに残した2人の悔しさ
ホールアウト後、長﨑は人目をはばからず大粒の涙を流し、嗚咽(おえつ)が止まらなかった。5打のリードを持ちながら勝利に届かなかった心境を思うと、見るものの胸も締めつける光景だ。
インタビューでは声を振り絞り、優勝への重圧を語った。「そういう舞台(マスターズと全英)が目に入ってしまって緊張してしまいました。メンタル的な部分も足りなかったと思います」。
気持ちの整理がつかないまま、それでもこう言葉を紡いだ。「もっともっと練習や優勝争いを重ねて、来年、この大会で優勝できるように頑張ります」。アジアアマの悔しさはアジアアマで晴らすしかない。来年のニュージーランド大会での飛躍を願うばかりだ。
また、2年連続3位で終えた中野もラウンド後に涙をこぼした。涙をぬぐいながら「優勝っていうのは特別ですね」としみじみ語った。アジアの強豪たちと互角に戦える実力を示したものの、「分からないですが、足りないものがある」と静かに振り返った。
アマチュアとして出場する海外試合はこれが一区切り。中野は今年も積極的に海外遠征をこなし、各国の選手たちと切磋琢磨しながら腕を磨いてきた。それでも「プロになったら、またイチからのスタート」。厳しい世界に飛び込む覚悟はできている。アマチュア時代に積み重ねた経験を胸に、新たなゴルフ人生を歩み出そうとしている。
数多くのスポーツを支える「ロレックス」が大会をサポート
スイスの腕時計ブランド「ロレックス」は、数多くのゴルフプレーヤーや大会とパートナーシップを結び、ゴルフの発展に貢献している。灼熱の気温に負けないほど熱い戦いが繰り広げられた今大会もサポートしており、ドバイの摩天楼を背景にゴールドのベゼルが輝くクロックが大会の格式を引き立てていた。
誰もが知る腕時計ブランド。その精確性、機能性、そして信頼性。どれをとっても世界ナンバー1と称されるロレックス。アーノルド・パーマーとのパートナーシップをきっかけに、ジャック・ニクラウス、ゲーリー・プレイヤー、タイガー・ウッズ、アニカ・ソレンスタム、松山英樹など、時代を彩るトッププレーヤーたちをテスティモニーとしてサポートしている。
また、男子の4大メジャー、女子のメジャー、米国と欧州の対抗戦「ライダーカップ」など、世界規模の大会のオフィシャルタイムキーパーを務めるだけでなく、米国ジュニアゴルフ協会やアマチュア大会の支援にも力を注ぎ、将来有望な新世代の選手たちを後押ししている。
2026年はニュージーランドのテ・アライリンクス・サウスコースでの開催が決定している。ゴルフの卓越性を永続させるため、常に寄り添い続けるロレックスは、これからも才能あふれるアマチュアたちの飛躍を支え、一緒に時を刻んでいく。(文・齊藤啓介)
