それを見ていて思ったのが、心の底から笑うことができているのかということ。スマイルが取り上げられ、海外メディアはこぞってシンデレラのおとぎ話に仕立て上げようと渋野に密着した。コースに出れば、ファンからの声援にも笑顔。大事なラウンド中でも子どもにグローブをプレゼント。正直、疲れることはないのか、勝手に気になってしまった。
さらには、すでにテレビ出演なども現地からこなすなど、注目度は以前の何倍どころか、何十倍、何百倍に膨れ上がり、ゴルフ界以外からも取材が殺到するだろう。帰国すれば大フィーバーになることは間違いない。そんな渋野に質問してみた。「笑顔でいなければいけないというプレッシャーは?」。渋野の答えは単純明快だった。「何も変わらん」。
笑顔がトレードマークだからといって、ボギーを打てばしかめっ面。怒りを表す場面だってある。今大会でも、近寄りがたいほどの怒りの表情を見せたことだってある。優勝という栄光を目指している選手なら当たり前のことだが、スマイル推しの印象が渋野にムリをさせるのではと思った。そこで投げかけた質問だったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
「おなかがすいて吐きそう」、「食べたものが出てきそう」など、渋野がいえば笑い話になってしまう。思っていることを口に出し、自分をつくることなく正直に周りに接する。笑顔だけでなく、抜群の愛想で礼儀正しく、気遣いもある。そんな渋野の屈託のないスマイルを見ると、海外メディアも自然と笑顔になるのも当然だ。
優勝会見前、ぜひ米ツアーに来てほしい選手だと、米メディアの記者から言われた。「あんな選手は見たことがないし、絶対に人気も出る」とラブコールをいただいたが、当の本人は、「日本でやります」と、きっぱり海外ツアー参戦を否定した。「私は日本でもまだまだ。こっちには来ません」。

