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今季最多ギャラリーも…手放しで喜べない女子ツアーの実情 コロナ禍以前の“日常”が“非日常”にならないために【現地記者コラム】

今季最多ギャラリーも手放しでは喜べない? 女子ツアーの実状。

所属 ライター
臼杵孝志 / Takashi Usuki

配信日時:2025年9月23日 12時00分

裏街道でも多くのギャラリー。盛り上がった大会だが、完全にかつてに姿を取り戻したわけではない。
裏街道でも多くのギャラリー。盛り上がった大会だが、完全にかつてに姿を取り戻したわけではない。 (撮影:米山聡明)

先週の国内女子ツアー「住友生命Vitalityレディス 東海クラシック」に出場した森田理香子が驚いていた。最終日は10番からのインスタート。優勝争いとは無縁の、いわゆる裏街道だったが、大勢のギャラリーを引き連れてのラウンドに「お客さんが多かったですね。一緒に回った安田(祐香)さんはかわいくて人気があるし、愛知は久美ちゃんの地元。ひっそりやれると思っていたけど、なめていました」と笑った。

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同じ1989年度生まれの金田久美子と同じ組で回ったプロ18年目のベテランは、「楽しかった」と言った後、「一緒になるのは初めてじゃないかな」とつぶやいた。が、これは大きな勘違い。2017年「大王製紙エリエールレディス」最終日以来で、今回が20度目だった同組ラウンド。これも、約6年ぶりとなった昨年3月の現役復帰から2年目の今季初戦というブランクゆえかもしれない。

話は横道にそれた。元賞金女王のプレーを久しぶりに見たかったファンもかなりの数はいたと思うが、会場の新南愛知CC美浜Cには3日間で1万7328人のギャラリーが訪れた。渋野日向子ら米ツアー組も多数参戦した3月の「Vポイント✕SMBCレディス」の1万6598人を上回り、3日間大会では今季最多。全体でも3番目の大入りとなった。ゴルフ熱が高い愛知は、以前から男子ツアーも含めて多くのギャラリーがトーナメント会場に足を運んでくれる場所だった。この大会は名古屋駅から電車で行け、最寄り駅からはギャラリーバスに乗れば5分でコースに着く。有料道路のインター近くにはギャラリー駐車場もあり、例年多くのファンを集めてきた。

渋野の「AIG女子オープン」(全英)の優勝で沸いた19年大会は2万4915人の入場者数を記録した。全英から帰国5戦目の渋野は最終日に8打差をひっくり返して優勝。歴史に残る大逆転だった。この年は1998年度生まれの黄金世代が大ブレークした。渋野、小祝さくら、河本結、原英莉花らが初優勝を果たし、渋野は賞金女王争いも演じた。さらには1学年下の稲見萌寧の初優勝、古江彩佳のアマチュア優勝もあった。開催された39試合の1試合平均入場者数は1万7509人。前年から2842人増えた女子ツアーは、宮里藍が巻き起こした“藍ちゃんフィーバー”以来の活況を呈した。

今季は前週までの25試合の平均入場者数は1万1163人。先週は3日間大会にもかかわらず6165人も多かったのだから、森田がびっくりしたのも無理はない。だが、昨年大会から総入場者数は2037人減り、19年からは7587人も減った。大会側、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)も今季最多を手放しで喜ぶわけにはいかない。ツアー屈指の“優等生大会”もコロナ禍明けから続くツアー全体の客離れには歯止めをかけられなかったのが実情だ。

新型コロナの影響で統合シーズンとなった20-21年シーズンは、20年の14試合すべてが無観客、21年は38試合のうち観客を入れた試合は15試合しかなかった。日常が非日常になった2年間。すべての試合が有観客となった22年以降の1試合平均入場者数は22年が1万231人で、23年は1万1565人、24年は1万1243人、そして今季は前週の「ソニー日本女子プロ選手権」まで1万1163人と横ばい状態が続く。当たり前だった光景は今も完全には戻ってきていない。

渋野、勝みなみ、西村優菜らに代表される人気と実力を兼ね備え、ツアーの屋台骨を支えてきた多くのトッププロたちはここ数年、続々と米ツアーに主戦場を移した。今季も山下美夢有、竹田麗央、明愛・千怜の岩井姉妹、原英莉花が海を渡った。左手首を故障した小祝は7月にツアーを離脱して手術に踏み切り、今季中の復帰は絶望的だ。スター不在がコロナ禍以降のファン離れに拍車をかけていることは、今さら説明も不要だろう。

コロナ禍後はチケット代の値上げも続いている。さらに、出場した選手と一緒に写真が撮れるチャリティフォトも激減した。間近に推しのプロと会える“チャリフォト”は大きな集客効果があったが、3密を避けるためのソーシャルディスタンスを保つのが不可能なイベントだけに、有観客に戻っても、すぐに再開されなかったことは仕方ないが、3年たった今もかつての日常は戻ってこない。

賞金も含めたトーナメントにかかる費用はほぼ大会主催者及び協賛する企業の財布から出るお金で賄われる。プロ野球、Jリーグなどとは異なり、チケット収入が減ったからといって赤字になるわけではなく、無観客でも大会は運営できる。客を入れることで発生する経費は逆に必要なくなる。

ゴルフはスポンサーの存在で成り立っている競技だが、だからといって、現状を放置していいはずがない。ファンがいなくなればスポンサーも離れる。8月に函館近郊で開かれた「ニトリレディス」2日目は悪天候も災いして、入場者数は956人だった。3ケタ観客は昨年の同じ「ニトリレディス」2日目の977人以来。これが日常にならない保証はない。「千丈の堤もアリの一穴より崩れる」だ。

選手個々の力がツアーを盛り上げていく最も重要なコンテンツだとは思うが、ツアーを支える太い幹に成長する選手が現れるのを待っている余裕はないだろう。JLPGAは迅速に動いてほしい。「小事が大事を生む」という格言もある。小さなことからコツコツと、だ。まずはチャリフォトの復活から始めてみてはどうか。
 
ネット中継でほぼ全試合を見られる便利な時代になったが、会場に足を運ばなければ体験できないことはたくさんあるはずだ。かつて「ギャラリーより関係者のほうが多い」と揶揄された暗黒の時代に戻ることはないと思うが、キズは小さなときに治すに限る。(文・臼杵孝志)

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