一昨年の東京ゴルフ倶楽部、昨年の日光カンツリー倶楽部では、日本オープンらしい“剛ラフ”が選手を苦しめた。入れば終わり、点で狙うようなフェアウェイキープが求められたこれまでの大会とは、今年は様相が変わった。
広々とした36ホールがゆったりと配置されたコースで、ボールが沈み込むようなラフは見当たらない。昨年覇者の片岡尚之は「日本オープンのセッティングからしたら少し短い。スポッと埋まるわけではないので、ミドルアイアンくらいまでなら打てそう」と話していた。
大会開催前、日本ゴルフ協会(JGA)の山中博史氏は、ラフについて「思ったほど伸びず、90ミリで刈り止めをしている」と、今年のセッティングについて話していた。
気象条件も影響したが、山中氏は「フェアなセッティングになるように」とも明かした。近年は、かつてのような厳しいラフを特徴とする日本オープンらしいセッティングにこだわらなくなっている。
その背景には、「全米オープン」を主催するUSGA(全米ゴルフ協会)の方針転換もある。かつての狭いフェアウェイと深いラフで選手を苦しめるセッティングから、フェアウェイを広くする方向へ。JGAも、USGAがそうしたように、フェアなセッティングへと舵を切っている。
山中氏は優勝スコアを15アンダーと見積もっていた。実際、細野勇策が第2ラウンド終了時点でトータル11アンダーまで伸ばし、予選カットラインはトータル2オーバー(パー70/142打)。同大会の最少カットラインを更新した。
ただ、決勝ラウンドでは硬くなったグリーンに加え、厳しいピンポジションが選手を待ち受けた。さらには、524ヤードと距離のある10番パー4ではティイングエリアをさらに下げる厳しい設定に。それでも細野はトータル13アンダーまでスコアを伸ばし、優勝を飾った。大会史上5番目となる最少スコアだった。
耐えのゴルフという印象が強い日本オープンだけに、ネットでの反応は賛否が分かれていた。実際、筆者も実力者たちが苦戦する我慢比べこそが醍醐味だと思っていただけに、“らしくない”と感じた。
ただ、いろいろな選手の声を聞くうちに、その考えも変わっていった。国内屈指の飛ばし屋・河本力はこう話す。「フェアウェイを絞って、ラフが伸びているかと思ったら、そうでもないので、すごくチャンスがあります」。昨年大会ではドライバーを一度も握らなかったというが、今年は初日からドライバーを多用していた。
堀川未来夢も「面白いと思います。日本オープンと言ったら特有の、出すしかない長いラフですが、こういうラフの方がドライバーを持つ選手もいるだろうし、見に来てくれたお客さんにドライバーショットを見せたいので」。
そんな声を聞いて、ふと思い出したことがある。以前、アジアンツアーのインターナショナルシリーズ「シンガポールオープン」を取材した際、優勝した浅地洋佑に日本とアジアンツアーのセッティングの違いについて聞いたときのことだ。
「アジアンツアーは日本に比べてフェアウェイが広く、ティショットは“マン振り”。一方で、シビアなピン位置が多く、セカンドショットの精度が問われる」
昨年は米国男子ツアーを戦った大西魁斗の声も思い返した。「日本はティショットをどれだけ正確に打てるかが重要。アメリカはコースが広いのでセカンドショットが重要。日本の選手はアメリカに行ってそこが躓くところ」と話していた。海外ツアーを経験した選手の声に共通するのは、ドライバーをしっかり振り、セカンドショットの精度を磨くということ。
深いラフで耐え抜くゴルフだけが、日本オープンの難しさではない。優勝者には「マスターズ」「全英オープン」という海外メジャーの出場権も与えられる。だからこそ、今大会のようにドライバーで飛ばし、難しいピンポジションを果敢に狙っていく。そんな海外ツアーのようなセッティングが、日本オープンにあってもいいのではないだろうか。(文・齊藤啓介)
