ゴルフ用品の値上げが止まらない。ドライバーやアイアン、ボールだけではない。いま、静かにゴルファーの財布を直撃しているのが、クラブの「グリップ交換費用」である。
春先からゴルフショップや工房の店頭、SNSなどで「グリップが値上がりするので、交換を考えている方は早めに」といった告知を目にしたゴルファーも多いはずだ。ゴルフプライド、イオミック、エリートグリップなど、人気ブランドの価格改定が相次ぎ、交換工賃を含めた“グリップ交換費用”は確実に上がっている。
中でも注目されるのが、世界的ブランドであるゴルフプライドの動きだ。国内で展開する⽇本フェィウィック株式会社によれば、「原材料高や物流費もあるが、やはり円安の影響が大きいです」と語る。
海外で製造されたグリップを日本で販売する以上、為替の影響は避けられない。円安が進めば輸入コストは上昇し、企業努力だけでは吸収しきれなくなる。実際、ゴルフプライドでは4月から一部商品で4〜5%程度の値上げを行った。1本あたりの値上げ幅は数百円かもしれない。しかし、ドライバーからウェッジまで13本を交換すれば、負担増は数千円規模になる。そこに工賃も加わる。
かつては「そろそろ替えておくか」と気軽に考えられたグリップ交換も、いまやボールやシューズと同じように、予算を意識しながら選ぶ消耗品になりつつある。
さらに現場では、グリップ本体以上に深刻な問題も起きている。工房事情に詳しいゴルフ用品界社の吉村氏によれば、影響は交換作業に欠かせない副資材にも及んでいるという。
「グリップそのものも値上がりしていますが、最近は両面テープの価格上昇が大きい。10〜40%近く上がっているものもあります」
グリップ交換では、古いグリップを外し、シャフトに新しい両面テープを巻き、溶剤を使って新しいグリップを装着する。つまり、グリップ本体だけでは作業は成立しない。特に工房が頭を悩ませているのが、両面テープの供給だという。
「以前から入荷しづらい時期がありました。仕入れ先変更などの影響もあり、一時的に在庫が不足した工房もあったようです」
加えて、溶剤類も石油価格の影響を受けやすい。ホルムズ海峡封鎖のイラン情勢が更に拍車をかけている。グリップ交換で使われるホワイトガソリンなどは石油由来製品であり、原油価格や物流コストの上昇がそのまま現場に波及する。つまり、いま起きているのは単なる“グリップ値上げ”ではない。円安、原油価格、物流、石油化学製品不足といった、世界的な供給網の変化が、ゴルファーの手元まで及んでいるのである。
ゴルファーは、クラブヘッドやシャフトの進化に目を向けがちだ。しかし、クラブと体をつなぐ唯一の接点はグリップである。いくら高性能なヘッドやシャフトを使っていても、グリップが硬化し、滑りやすくなっていれば性能は十分に発揮できない。滑りを嫌がって余計な力が入り、スイングの再現性を崩すケースも少なくない。
「最近ミスショットが増えた」と感じていても、原因はスイングではなく、劣化したグリップにある場合もある。ショップ側にとっても、グリップ交換は重要な接点だ。クラブを買い替えるほどではなくても、グリップ交換なら気軽に相談しやすい。そこからクラブ診断やシャフト相談、ウェッジの摩耗チェックなど、次の提案につながることも多い。
一方で、価格上昇によって交換頻度が落ちる可能性もある。ただ見方を変えれば、今回の値上げは「何となく同じものを交換する」から、「自分に合ったグリップを選ぶ」時代への転換点とも言える。グリップには、太さ、重量、硬さ、表面パターン、バックラインの有無など、多くの選択肢がある。それによって球筋や振り心地、フェースコントロールの感覚も変わる。価格が上がる時代だからこそ、「とりあえず交換」ではなく、自分に合ったモデルを見直す意味は大きくなっている。
そして、もう一つ意識しておきたいのが、「交換したい時に、すぐ交換できるとは限らない」という現実だ。グリップ本体だけでなく、副資材の供給まで不安定になれば、工房によっては在庫確認や予約が必要になる。特に梅雨時期や夏場、競技シーズン前など、グリップ性能がプレーに直結する時期は早めの点検が欠かせない。
円安や資材高騰、資材不足は、グリップのような小さなパーツにも確実に波及している。だからこそ、いま改めて見直したいのが“手元”である。クラブと体をつなぐ唯一の接点を整えることが、これからのゴルフではこれまで以上に重要になっていく。(取材・文/嶋崎平人)