車名からもわかるようにボルボのフラッグシップサルーンとなるのがES90。SUV版のEX90とともに日本上陸を果たした。ボルボらしさは残しつつ、精悍さも兼ね備えたデザインは存在感たっぷり。ボルボが放つ、サルーンの実力を松任谷正隆氏はどう評価する?
編集部(以下、編):まあ、ボルボですね。
松任谷(以下、松):ボルボだね。一目でボルボと分かる理由は何だろう。
編:シンプルさですかね。
松:昔、空飛ぶレンガと言われた時代もあったな。
編:何ですかそれ?
松:ボルボが昔ヨーロッパツーリングカー選手権に出ていた頃の話だよ。
編:へえ、そんな時代あったんですか。
松:レンガってひどくないか? デザインがないっていうことだろ。
編:まあ、そうなのかなあ。
松:空力を考えていない、とかさ。
編:でもきっと強かったんでしょ?
松:強かった記憶はあるよ。
編:最近はこのトールハンマーを特徴にしていますよね。
松:そうだな。前後ともにトールハンマー型のライトがテーマだね。
編:でも遠くから見ればやはりボルボ。
松:大事なことだよね。フォルムは基本だよ。音楽で言えばリズムと一緒。
編:ふうん。それをスイングにも生かせればいいのにね。
松:何か言うと思った……。
編:松任谷さんは切り返しが下手ですよね。
松:はっきり言うじゃないか。でも自分でもそう思ってるよ。
編:変に力んでますよ。
松:だから知っているって。アルバ読んでもちっともうまくならないんだよな。
編:読み方が悪いんですよ。
松:あ、そう。じゃあ今度は後ろから読んでみるわ。
編:まったく……。
松:さあ乗った乗った。出かけようぜ。
編:さっきコースに電話したら、今日は結構、霧が濃いみたい。
松:そうなのか、それは怖いなあ。後ろから打ち込まれるかも。
編:で、頭に当たって死んじゃう、でしょ?
松:本当にいたんだって、霧の中でゴルフやって、球が木に跳ね返って顔面に当たって大ケガしたやつ。
編:それはよっぽどですよ。
松:そうかなあ。
編:それより、帰りは運転するんで、行きは後ろの席に座ってもいいですか?
松:俺が運転手? で、君は?
編:若き実業家ですかね。
松:ごっこ、ね。でもまわりのクルマには本当にそう思われるんだろうなあ。
編:ショーファーはおじいさんが多いですからね。
松:……。
編:さあ、出してくれたまえ。
■EV、そしてサルーンとしてもトップクラスの出来
松:いいクルマだな。ボルボって、今まではどことなく野暮ったいイメージがあったんだけど、完全に払拭されたな。
編:どこが野暮ったかったですか?
松:例えばステアリングの感触とかさ、揺れ方とか、ボディのたわみ方とか。
編:ボディはがっちりしていたでしょ?
松:そのはずなんだけど、最後が詰め切れてない感じだったんだよ。
編:そうかなあ。
松:どこかアメリカ車的なおおらかさがあったんだよね。
編:それはアメリカで乗ったからじゃないですか?
松:よく知ってるね。
編:何かで読んだことがあります。
松:へえ、俺の書くものなんか読むんだ。
編:たまたま目に入っちゃったんですよ。
松:で、後ろの席はどうなんだい?
編:いやあ、広々ですね。Sクラスのメルセデスくらいありますよ、冗談抜きで。
松:足もとはそれくらいありそうだったね。
編:ちょっとだけ座面は短いかな。それに少しだけリクライニングもします。前席のシートバックが低めだから開放感もあるし、このガラスルーフもいい感じだし。
松:揺れはどうかね?
編:いろいろな後席に乗ったわけじゃないのでなんとも言えませんが、揺れませんよ。
松:こっちも揺れないね。ホイールベースが長いせいか、穏やかだし、柔らかさもちょうどいい。シャフトで言えばSRといったところかな。それよりなにより、ダンピングが効いていて揺れ残りがない。これがボルボの一番の進化かもね。
編:ロードノイズ、小さくないですか?
松:そうそう、これも素晴らしいね。ロールスロイス並みと言っていいんじゃないかね。サイドウィンドウは2重だったし、遮音にはかなり力を入れているみたいだな。それにこのタイヤが素晴らしいね。この静かさは感動的だな。
編:ハンドリングはどうですか?
松:普通にいいよ。現代のサルーンとしてはトップクラスだと思う。直進性もいいし、コーナリングも自然。でも、このクラスはもうみんな、このくらいのレベルになってきているんだよね。
編:そうなると特徴を出すのは難しくなってきますよね。
松:今どきのフレンチレストランと一緒だよ。
編:どれが肌感に合うか、なんですかね。
松:そういう意味では、俺は相当気に入っているんだよ。欲しいくらいだ。
編:松任谷さんってどこか過激なクルマがお好きじゃないですか。これはどこかそういうところがありますか?
松:じゃあ見てて。
編:ひゃー!! のけぞりました。だめです。お客を後ろに乗せてそんな運転しては!!
松:でも、これもボルボ。
編:電気自動車だとはいえ、ボルボがこんなことをやるとは意外です。
松:フライングブリックなのかねえ。
編:でも、こうなると確かに非の打ち所がなくなってきますよね。
松:そうねえ。インテリアのスカンジナビアンデザインもなんだかシンプルな中に個性が際立っているし、これ見よがしなところがないし、ひたすら上品だよね。そこらへんの成金には理解できないミニマルさがあるよ。
編:それ、ひがみですか?
松:そういうわけじゃなくて、美意識はお金では買えないってことだよ。
編:これのSUV版もあるんですよね?
松:EX90 というのがあるね。
編:それも興味深いなあ。
松:まあでも、重さとかを考え合わせると、こっちのほうがバランスはいいはずだよ。
編:そうかも、ですね。
松:さてと、着いたね。
編:霧ですね。
松:かなり深いね。
編:ご飯だけ食べて帰りますか?
松:いや、やっぱりやろう。
編:なんで?
松:だってクルマも少ないから、今日はがらがらじゃない?
編:そういうことね……。
VOLVO ES90 Ultra Twin Motor Performance
◆全長全幅全高:5000×1940×1545mm ◆車両重量:2560kg ◆モーター最高出力:F=220kW(299ps)/R=280kW(381ps) ◆モーター最大トルク:F=390N・m(39.8kg-m)/ R=480N・m(48.9kg-m) ◆ミッション:− ◆WLTCモード燃費(一充電走行距離):720 km ◆定員:5人 ◆価格:1229万円
文・写真/松任谷正隆