実は、ピンとタイトリストは似ている?
何が言いたいか? といえば、ピンとタイトリストの姿勢について、である。これまで派手なマーケティング手段を取ってこなかった、ある種、地味でマジメなメーカーが、情報過多な社会でいま“最旬”を迎えている気がしてならない。
⇒タイトリスト『TSi3』『TSi2』シリーズ大激論。「コレだけは、色々マズい……」
「前作の性能を上回るまで、新製品は出さない」。高MOIを追求してきたブレないピンの姿勢はここ数年で大きくファンを獲得したように思う。そして、実は大きなアプデをしたにもかかわらず、コンサバなブランドイメージからそれを【アピールしないタイトリスト】の姿勢も近しい存在に映る。それではあまりにもったいないので、筆者の知る事実を明かしたくなった。
端的に現れるのが、ヘッドMOI(慣性モーメント)の数字だろう。ここ数年ピンの評価が上がったのも、ずっとこの数字を追求してきた結果「ブレない、曲がらない」との評価をゴルファーから得られたから。そして「左右と上下を足した数字で9000を越えることが1つの目安」とピンは言い続けてきた。
PCMラボが計測した『TSi2』のヘッドMOIは左右MOI「5533g・cm2」+上下MOI「3708g・cm2」で、合計数字が【9241】。また、プロが好む『TSi3』でさえ左右「4991」+上下「3089」の合計【8080】だ。ピンより約ヘッド重量が3〜4gほど軽いことを考えれば、ピンも真っ青な高MOIヘッドなのに、なぜかアピールしない。実にもったいない……。
高MOIをアピールしない理由は「目的が違うから」
「数字の競争に意味はなく、ヘッドMOIを極限にすることが目的ではないのです。数字が極限でも、プロが振りづらくなってスピードが得られなければ意味がありません。あくまでも、ボールスピードを速めることが目的。そのために、ATI425チタンという稀少でバネ性が高く、強度の高いフェース素材を採用しています。タイトリストがヘッドMOIを高めるのは、このフェースの特異性を活かし、芯を外しても高いボールスピードを得ることが目的なのです」(同社、PR担当)
たしかに、筆者が『TSi』を購入した決め手が、この圧倒的なボールスピードにある。激しく打点がバラつく筆者は、滅多に芯に当たらないが、『TSi』だと他メーカーのものより1〜2.5m/sくらいボールスピードが速く出る。店頭で打ち比べて購入した人はもちろんご存知のはずだ。
ヘッドMOIと同様に気になってPCMラボに協力を仰ぎ、ファイバースコープをネック穴から入れてヘッド内部の構造を確認したが、フェース裏側がかなり複雑な構造になっていることが判明。凝りに凝っているのに、なぜアピールしないのか。またもや、もったいない……。
どおりで芯を外しても初速が出るはずである。キャロウェイのように「AIを用いて」とは言わなかったが、タイトリストもキャロウェイと同様にモデル毎、しかもロフト毎にフェースの偏肉化を図っていたことを今までずっと“黙っていた”のだった。
PGAツアー使用率など、ツアープロが証明してくれる
たしかに、タイトリストのPGAツアー使用率は、今年“も”尋常ではなかった。昨年も全カテゴリ(ドライバー、FW、UT、アイアン型UT、アイアン、ウェッジ)でPGAツアートップ級の使用率を記録していた同社だが、コロナ禍の今年もさらに加速。世界中のツアーで『プロV1/プロV1x』の使用率は73%前後。2位メーカーは足元にも及ばない。
数多くのPGAツアープロからの要望を聞いて形状を見直し、高初速エリアの広い【ATI425チタン】を採用したとなれば、今年『TSi3』がモデル別使用率1位を取り続けるのも当然だと思う。なにしろ、打点を激しく外す筆者でも大幅なアプデが体感できるわけで、プロゴルファーが感じ取れないわけがないのだ。同社が性能アピールをしないのも、単なる自信の裏返しだったのか。
11月13日発売、当月シリーズ売上1位(編集部調べ)
筆者も発売前に試打してすぐ予約したため、購入者たちの気持ちがよく分かる。ただ、唯一の後悔は、フィッターやゴルフ仲間が『TSi3』を同時期に購入したのに対し、筆者は打点を外す不安からやさしい『TSi2』にしたこと。仲間から『TSi3』を勧められたにもかかわらず、自分の判断が仇となった。
コースで数ラウンド重ねた結果、仲間の『TSi3』を借りて打つと筆者にはこちらの方が飛ぶと分かってしまった……。そして今回の話を聞いて、まさかの同一ブランドの【2個持ち】を決意した。(予約時はヘッドMOIを計測しておらず、『TSi3』がこんなに高MOIだと想像できなかった…)
後悔はしていない。【ATI425チタン】はタイトリストだけの採用だし、最速ボールスピードを出せるエリアがこれほど広いドライバーも珍しい。あとは日によってバラツキの多い自身のスイングパターンに合わせ、『TSi3』は夏場の絶好調時用、『TSi2』は安定重視で冬の振れない時期用に細かなスペックやシャフトを整えればいい。丁度この年末年始の時間を使って、仕上げにいこうと思う。
なぜ、カスタムに古い『ツアーAD DI』を選んだのか?
ここでも疑問が湧く。「なぜ、こんなに古いシャフトをいま用意したのか?」と。通例ならシャフトメーカーの最新作が用意されるはずだが、なぜ、そうしないのか?
「タイトリストは長年フィッティングが重要であると考えており、そして日本でもここ数年強化していますが、シャフト選びは簡単ではありません。それは人の感覚というものはそれそれであるためです。同じシャフトでも、手元側を感じる派と、先端側を感じる派でフィーリングが真逆になることもあるからです。
長年のフィッティングの経験から、ゴルファーは常に新しいシャフトを求めているのではなく、ヘッドの性能を引き出してくれるシャフトを求めていることがわかっています。よって今回の『TSi』に採用したシャフトポイントは、まずは高MOIのヘッドの性能を引き出してくれること、そしてゴルファーが気持ちよく振り抜けるフィーリングを提供できるものをラインアップしました。
その一つが『DI』でありますが、我々のテストにおいてこのシャフトの特性としてシャフトの手元側を感じる方、先端側を感じる方でも、両方ともに心地よく振り抜けるフィーリングが得られるということで採用しました。
この2つの純正シャフトも非常に好評で、先にも触れましたがヘッドの性能を引き出し、かつスイング時の振り心地の良いフィーリングを提供できるそれぞれ特徴をもったラインアップとなっているため、多くのゴルファーの方々に満足いただけ、またフィッティングによりさらにその満足度を高めていけると考えています」(同)
派手なデザインで性能がイマイチなもの、地味な見た目で性能が高いもの。「長期的に見て、どちらにメリットがあるか?」。世のゴルファーは、本当に長く使えるものを冷静に見極めるため、「どれだけ高性能を追求しても、過度なアピールをしない」。それは、長期的な付き合いを望むゴルファーに対するタイトリストの一種の回答なのかもしれない。
Text/Mikiro Nagaoka