ゴルフクラブの進化は止まることがない。飛距離と正確性をもたらしてくれるギアこそがゴルファー永遠のニーズだからだ。今回はフェース面の“たわみ”についての話を、四六時中ゴルフ漬けのロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が語る。
「どうしてウッドのフェースには溝がないのですか?」質問がありました。確かに、現在ごく一部を除いて、ウッドクラブのフェースに溝はありません。
飛距離を出すクラブは木製ヘッドが主流だったことから、今でもドライバーなど飛距離を出すクラブは「ウッド」と呼んでいます。20世紀の大部分は、パーシモンという柿の木でヘッドを作ることが主流になっていましたが、この頃のドライバーやフェアウェイウッドのフェースには、アイアンと同じような溝がありました。
ティアップできるドライバーに溝はいらないという考え方は20世紀半ばからありましたが、慣習的な意味で溝がないと気持ちが悪いということで、溝は装飾としてもあるのが普通だったのです。
ウッドのヘッドが、木製から金属になっていくのは20世紀の終わりの10年間です。初期の金属ヘッドのドライバーを見てみると、まだ、溝が刻まれています。
ステンレス製のヘッドとフェースではヘッドを大きくするのに限界があり、素材革命で、強度は強いのに軽いチタンがフェース素材として採用されて、金属製のヘッドはドンドン巨大化していきます。ステンレスのときは、強度の問題で厚かったフェースは、チタン製になって薄くなっていきました。重量を軽くするために薄くした工夫が、結果オーライで、たわんでボールの初速を上げる効果を生み出したからです。
この頃、買ったばかりのドライバーのフェースが割れるという事件が多発しました。溝の部分が薄くなり過ぎてひびが入ってしまったのです。各メーカーは、一斉にひび割れる原因になる溝を廃止しました。ドライバーなどのウッドクラブのフェースの溝は、21世紀になる直前のチタンフェース時代が始まった最中、さり気なく消えたのです。
と書きながら、2026年に米国を中心に盛り上がっている『キャビテーション問題』のことを考えていました。現在、アイアンの構造として中空ヘッドは、多くのメーカーから発売されていますが、このフェースも最先端のテクノロジーで日進月歩です。
フェースの凹みは見た目でわかりづらいので、フェースに定規などの平らなものを当てて、隙間が空かないことを確認する方法が認知されたのが2026年の春でした。確認してみたら、購入したばかりで2ラウンドしただけのアイアンの5番だけが隙間ができる、というような感じで、新品から古いものまで、フェースが凹むことが『キャビテーション問題』です。保証期間中であれば、通常の使用で凹んだ場合のみメーカーが交換や返金などに応じてくれます。
「凹面フェースは有利なのだから、気がつかないフリをして、このまま使ったほうがお得じゃないか」。人間は弱いもので、こんな悪魔の囁きに負けて、黙ることにする人もいます。その結果、大失敗だったと後悔することになるようです。
多くの中空アイアンは、フェースのたわみで初速を上げる機能があります。凹んでしまうとその機能は働きません。仮にボールのコントロールが良くなったとしても、その番手だけ飛ばなくなるのです。
方向性よりも飛距離が重要だ、と考えるのも、ゴルファーのあるある話です。ズルをしようとすればバチが当たるというオチまでが、『キャビテーション問題』だという人もいますが、だからゴルフはやめられないという面白いお話です。
フェースはクラブの顔です。そして、機能が詰まった秘密のパーツでもあります。たまには、じっくりと見つめ合う時間を作って、信頼を深めるのもゴルフの楽しみ方だと提案したいと思います。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年東京都文京区生まれ。中学1年でゴルフコースデビューと初デートを経験しゴルフと恋愛のために生きると決意。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。ベストスコア「67」、ハンディキャップ「0」。
