2021年は日本のスポーツ史の転換点?
ゴルフだけではない。全ての野球ファンの枠を越え、世の人を虜にするのが、2021年の大谷翔平である。その歴史的な活躍は、100年前のベーブ・ルース以外に例える選手はおらず、メジャーリーグを見続けてきた選手や記者が「アンリアル(現実とは思えない)」な唯一無二の存在と語る。
MLBで近年起きた「フライボール革命」でアッパー軌道の選手が増えたため、大谷翔平がアッパー軌道でも何らおかしくはない。そして、軸足となる左足の筋力強化も本塁打増の要因として語られる。大谷翔平が自身を変えたことは幾つもあるだろうが、一番周囲を変えたのは“報道”だと思う。かつて、これほど“数字”が語られたことがあるだろうか?
バレルゾーン。打球角度。ボール初速。飛距離。
大谷翔平以前にも、MLBで活躍した日本人選手はたくさんいる。が、ホームランを放っても、ことさらにデータが報じられることなど無かった。ましてや、最近では「バレルゾーン」と呼ばれる、長打が出やすい打球速度に応じた打ち出し角度の指標までが一般ニュースで解説される。大谷翔平は、MLBのバレルゾーン率で25.1%の現在1位である。
もっと言えば、日本でも30年以上前から「弾道計測器」が一般ゴルフショップで一般ユーザー向けに販売され、店頭設置のもの含め、誰もが利用可能な形で存在してきた。大谷翔平のホームランの1本ごとに数字が付与されて紹介されれば、より凄さが際立つもの。であるなら、ゴルフ界でも同様の価値付けがなされてきても良かったはずだ。
弾道だけでなく自身のスイング解析も加速
今年のキャンプから、バットのグリップエンドにジャイロセンサー内蔵の計測器『ブラストモーション』を取り付け、さまざまなスイングの三次元データを取り込んでいた。そう、弾道計測データは、あくまで結果でしかない。そのパフォーマンスを再現するためには、自らのスイングを可視化して、バットの動くプロセスを研究することで、打撃のスイング効率と再現性を高めたということだろう。
グリップエンドの『ブラストモーション』だけでなく、バット上部や投げる上腕にも『モータス』と呼ぶウェアラブルチップを取り付け、自らの感覚とデータの置き換え、負荷を計測し、故障防止も進めていた。
考えてみれば、日本のプロ野球でも160キロ以上の投手が珍しくなくなった。抑え投手の球速だけでなく、長いイニングを投げる先発投手でさえ、150キロ台後半の選手が現れ、大谷翔平もその一人。筆者の時代の常識では考えられない競技全体の進化である。
なぜ、大谷翔平の打球は飛ぶのか?
それは『インサイド・アウト軌道から来る、バットとボールの接触時間の長さ』だった。280本以上放った強打者でさえバットとボールは“正面衝突”のイメージだったと言う。大谷翔平のように、インサイド・アウト軌道では速球に振り遅れるリスクが高く「間の取れる変化球だとその打ち方はできた」という。
仮に大谷と同じヘッドスピードを出せる前提でも、ヘッド軌道しだいでバットとの接触時間は、コンマ数秒以下レベルで差がつく。通常、打者は速球に振り遅れることを嫌い、ヘッドを早く返して間に合わせるが、大谷翔平は150キロ超の速球でもインサイドからで間に合うスイングが当時からデフォルトだったとか。
そして、バットとゴルフクラブでは形状が異なるが、『常にインサイドから下ろす』エネルギー効率の良さは、ゴルファーならよく理解できるはず。球技で最長距離を誇るゴルフは、前述の通り、野球よりも遥かに物理的な解析技術が進んできた競技だったからだ。
エプソン『M-Tracer』でも大谷に学べる
顕著な例が、エプソン『M-Tracer for Golf MT520G』だと思う。昨年9月にハードの取り付け方法が、大谷翔平の『ブラストモーション』と同様、クラブのグリップエンドに装着する仕様が発売され、より扱いやすくなった。また、アプリの使いやすさも大幅に進化している。さらに特別な施設に出かけることなく、クラブに装着してボールを打てば、スイング解析ができるのは効率的だ。ゴルフの世界でも、自分のスイングエラーを分析しやすいツールが既に整っている。
▶▶ エプソン『M-Tracer for Golf MT520G』◀◀
弾道計測データは【いい結果が出れば】嬉しいもの。それはゴルファー誰しもが同じだが、日々の成長のためには、測定結果に一喜一憂しても仕方がない。弾道というスイングの結果だけでなく、そのプロセスを検証して、スイングのパフォーマンスを【再現できなければ意味がない】のだ。
そのため、大谷翔平のようにデータを活用しながら成長を続ける姿勢に我々も学びたい。感覚の数値化が再現性を高め、競技を進化させていく。得たい結果と、悪い結果の要因を分析して、パフォーマンスを改善する。ゴルファーが本当に進化したいなら、未来は常に開かれている。
Text/Mikiro Nagaoka