上田桃子 「赤の効果は振り遅れない」
そんな実力者は、道具を滅多に替えることのない、感性の鋭いプレーヤーとして有名。現在使用するパターヘッド『ホワイト・ライズix #1SH』は3シーズン目に入ったが、昨年の終盤から、赤い『ストロークラボ』シャフトに替え、調子がグッと上向きになった。通常の黒い『ストロークラボ』シャフトより硬めの『赤』に替えた理由を次のように話す。
「パターは『ホワイト・ライズ』も長いですね、3シーズンくらい。ちょこちょこマレット型にシーズン中に替えたりしますけど、やっぱりこの赤色のシャフト『ストロークラボ』になってから特にいい。元々ピンタイプがすごく好きで、ホワイトホットインサートが好き。ちょっとワイド目な『ホワイト・ライズ』にこのシャフトが加わったことでけっこう自信を持って打てるようになりました。
なるほど。ただ、【スチールだけのシャフトより、振り遅れない】と感じるのは、上田桃子だけではない。(ストロークラボをお使いの人なら体感済みのはず)
ジョン・ラーム、ブランデン・グレイスも赤シャフト
オデッセイのPGAツアー担当者の言葉を再度振り返ってみよう。
“彼は『2-BALL TEN』のアライメントが非常にお気に入り。ずっと『ストロークラボ』シャフトを使ってきましたが、今回の新しい仕様(赤い『ストロークラボ』シャフト)は打感がお気に入りですね。『2-BALL TEN』に替える前、彼はパッティングに苦しみ、毎週のようにパターを替えていました。ところが、コレを手にした瞬間、パッティングに自信が戻りました。彼のキャディがすぐそれに気づき、周りの選手からも【ブランデンのパッティングがこんなに良くなったのを見たことが無い】と言われるくらいでした”(同社PGAツアー担当者)
ドライバーと置き換えても分かりやすいだろうか。ラームとグレイスは、上田とはヘッドが違い、慣性モーメントが非常に大きな『2-BALL TEN』であるが故に、よりしっかりしたシャフトの方が【振り遅れず】に意のままにストロークしやすいことが想像できる。ただ、現実のところ、『赤』と『黒』ではどれくらいの違いがあるのだろうか?
黒が【R】だとするなら、赤は【S】か【X】の硬さ
「単純に言うと、硬さが違いますね。ツアーでは従来の黒い『ストロークラボ』シャフトだとしなり感があって振りにくいという意見もありました。そこでカーボン部分を硬くして、スチール部分の先端も2インチ短くカットしたのです。黒が『R』くらいの硬さだとすると、赤は『S』とか『X』くらいの硬さになっています」(オデッセイ国内ツアー担当)
なるほど、実際に2本のシャフトを比べてみると、赤いシャフトの方は確かにカーボン部分が長くなっている。これだと『赤』の方が柔らかいのでは? と考えがちだが、大きな誤解。現代はカーボンの方が軽量かつ、スチールよりも硬くできる。また、2本を振り比べてみると『赤』の方が手元部分が硬いのが分かる。
「ツアーでは自分の好みに合わせて、ヘッド形状、シャフト、グリップ、重さ、フェースインサートまで選ぶことができます。逆にそれくらいしないと、本当に合うパターにはならないんです」(同)
昔と違い、パターヘッドはどんどん重さを増してきた。それが『ストロークラボ』シリーズが生まれた経緯なのだが、従来の『黒』シャフトでも【しなり量が邪魔】な人がいるということは、我々は、しなり量が元々多い【脱スチールシャフト】の必要がありそうだ。
ツアープロだけでなく、我々に必要な理由
上田桃子が言うように、変なシャフトのしなりによる“振り遅れ”は、パターにも必ず出るもの。吊るしで用意されたスチールはしなりもトルクも大きいものが大半。ましてや、我々がプレーするグリーンは重いから、ストローク自体も大きくならざるを得ない。我々のパターシャフトの方が、多分にしなって当然ではないだろうか。
しなりが大きいことで「適度な間」が生まれ、タイミングの良化に繋がるならいい。ただし、ブルッとヘッドが遅れ過ぎて感じるなら、上田桃子が言う症状かも……。遅れを感じたなら、反応して追加のパンチが入るのも我々の常。もしかすると、ロングパットで下っ面に当たるあの嫌なミスも、頼りないシャフトのせいかも……。疑心暗鬼は止まらない。
十数年前からジャンボ尾崎は見抜いていた
いやはや、いい時代になったものだ。振り返れば十数年前、ジャンボ邸で目の当たりにした光景が、昨日のように思い出される。マスダゴルフの増田雄二氏とジャンボ尾崎のやり取りなのだが、「もっと硬くできないのか?」と、限界までカーボンを積層し、硬さを極めたパター専用シャフトを何本も試作していた。
そして現代。持続可能な社会の実現のため【脱カーボン化】のスローガンが叫ばれる中、ことパターシャフトにおいては、言葉としては逆になる。【脱スチール、要カーボン】で、パターの振り遅れを解消していきたい。
Text/Mikiro Nagaoka