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ブライソン・デシャンボー【湖越え】ショットの衝撃。使用ボールは全く「可哀想」ではない

「アーノルド・パーマー招待」の6番ホールで事件は起きました。貴方も筆者も、今後、語り継がれるであろう、ブライソン・デシャンボーが紡いだ新たなる歴史の目撃者です。

配信日時:2021年3月10日 19時00分

デシャンボーが魅せた、“湖越え”の衝撃

Tour Cast 3Dだと分かりやすい、ホールの状況。3日目についに湖越えでガッツポーズ
最終日は、3日目を上回る377ヤードを記録しました
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Tour Cast 3Dだと分かりやすい、ホールの状況。3日目についに湖越えでガッツポーズ
2つの見慣れぬ光景があった。「アーノルド・パーマー招待」の3日目、ブライソン・デシャンボーが6番ロングホールで見せた、“湖越え”のシーンである。ビルドアップの経過から温めていたプランを、初日・2日目は見送っていたが、ついに実行に移した。

普段の光景と全く違う。コース沿いに打つ他とは違い、眼前には湖しかない。カメラアングルが全く異なり、見渡す限りに広がる水面で、誰もこのアングルは狙わない。“無謀”に見えるショットだが、滞空時間の長いボールを見送る途中にまた見慣れぬシーンが。

ティショット後のガッツポーズ。これはホールインワンを決めたショートホールではない。プロのツアー、ロングホールのティグラウンドでは見ることがない光景だ。デシャンボーの“狙い”は、観衆や視聴者、同業の選手までもを巻き込み、【531yのロングで湖越えのショートカット1オン狙い】という熱狂を生み出した。

最終日も同様に湖越えを成功させたが、これが、“絶対に獲りたい、優勝争い”中に行われたことも信じがたい。わずかなインパクトのズレで湖の餌食になれば、即優勝争いから脱落する。それを承知で挑戦する姿に驚くが、そこが何ともデシャンボーらしい。

“道を切り拓く人”を尊敬してやまない

勝ちたかった、Mr.パーマーの試合での勝利に涙(GettyImages)

勝ちたかった、Mr.パーマーの試合での勝利に涙(GettyImages)

男は“道を切り拓く人”を尊敬してやまない。

トレードマークのハンチング帽は、大学の先輩である故ペイン・スチュワートの影響。今大会のアグレッシブなプレーは、敬愛する故アーノルド・パーマーのそれとも重なる。大会中に届いた、自動車事故治療中のタイガー・ウッズから「戦い続けろ、Mr.パーマーのように」とメールがあり、その後押しもあったとか。優勝後、パーマーが愛用した赤いカーディガンを着てタイガーとのやり取りを明かす。

「前に進み続けて乗り越えてください。ボクが出会った中であなたは最も勤勉な人で、克服するでしょう。ボクらが話していたことの一つは、お払い箱になったり倒れてしまった回数ではなく、何度も立ち上がって前に進み続けること。この赤いカーディガンは、Mr.パーマーだけでなく、彼の状況を考えると、タイガーのためのものでもあるんだ」(ブライソン・デシャンボー)
WGC-ワークデイ選手権では“タイガー”のネームをTOUR B Xに入れて戦った(GettyImages)
タイガーが使用しているのは、TOUR B XSの方。タイガーの健康を世界中のゴルフファンが祈っています
タイガーのネーム
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WGC-ワークデイ選手権では“タイガー”のネームをTOUR B Xに入れて戦った(GettyImages)
タイガーは、どの選手にとっても憧れの存在だが、先月の自動車事故による手術で、先の見えない戦いを余儀なくされている。勇気づけるため「タイガーと共に」とのツアー仲間の輪が広がり、ローリー・マキロイやパトリック・リード、アニカ・ソレンスタムらが最終日に赤黒のウエアを身に包んだのも記憶に新しい。

デシャンボーもWGC-ワークデイ選手権では自身が使用する『TOUR B X』ボールに、“TIGER”ネームを入れて戦った。同じブリヂストンのボール契約プロだからこそできる、“TIGER”を身近に応援する気持ち。道を切り拓いてきたレジェンドたちをリスペクトし、自身もそうなろうと懸命に努力を続ける。

23年前、J・デーリーが湖越えにトライ

当時のギアで350ヤードキャリーを狙ったデーリーも凄い…(GettyImages)

当時のギアで350ヤードキャリーを狙ったデーリーも凄い…(GettyImages)

湖越えに“成功した”からこそ美談として語られるが、過去に苦い経験をした人物もいる。それが23年前のジョン・デーリーだ。ティグラウンドからグリーンまで必要なキャリーは約350ヤード。デーリーはダイレクトにグリーン方向を狙い、5度も湖の餌食になった。結果、このロングホールで「18」の不名誉な記録を持つ。

対するデシャンボーは、この出来事もリサーチ済みなのか、グリーン方向をダイレクトに狙わず、やや右のバンカー方向を含めた余裕ある狙い方をした。この瞬間、また来年に向けた新たな見所が生まれた。気は早いが、次こそデーリーと同じ【グリーンダイレクト】をやってくれるはずだと、ショット詳細スタッツが物語っている。

最終日の6Hのショット詳細は、ヘッドスピード60.8m/s、ボール初速88.06m/s、スピン量1913rpm、スマッシュファクター【1.45】で、キャリーが320y、トータル377y。3日目はヘッドスピード61.24m/s、ボール初速87.6m/s、スマッシュファクター【1.43】で、キャリーが346.5y、トータル370yだった。

デシャンボーは【1.45】以下の当たりでも、370y・377yを記録して湖越えに成功した。もし、MAXに近い【1.51】なら、単純計算でボール初速93m/sを越えてもおかしくない。今年の成功データを分析した科学者なら、必ず来年もやってくれるはずだ。

規格外の初速でも、市販と同じボール

ボールスピードが90m/s前後なのに、市販と同じ『TOUR B X』を使用

ボールスピードが90m/s前後なのに、市販と同じ『TOUR B X』を使用 (撮影:GettyImages)

ドラコン選手のようなボール初速を手に入れたデシャンボー。観衆や視聴者は「ひっぱたかれるボールが可哀想」と思ってしまうほどの“怪力”だ。これほどの怪力なら「デシャンボー専用のプロトタイプボールなのでは?」との邪推も働く。

何しろ、R&AとUSGAが定める公認球のテストで採用される、「メカニカルゴルファー調整条件」は、ヘッドスピード120mph(53.64m/s)で、ボール初速256fps(78.0288m/s)が基準。デシャンボーはこの基準を大きく越えてしまっている。

ところが、ブリヂストンのボール担当者は「そう想像される方も多いですが、デシャンボー選手は、今も昔も市販のものと全く同じボールを使っています」と頭を振る。我々一般アマからデシャンボーの領域まで、幅広いヘッドスピード帯に同社のコア開発技術は応えると言う。(この異常な“怪力”にも、市販品で応えるとは……)

また、使用経緯も含め、「なるほど」と頷かざるを得ない。ボールを塩水に浮かべて調査して選んだデシャンボーだけでなく、タイガーや、レクシー・トンプソン、ジェイソン・デイらが【契約フリーの時にテストした結果】で選んでいる。いずれも、我々一般アマからすれば“怪力”揃いだ。

スポーツで“最長”距離の球技の新たな魅力

飛距離系スタッツは、敵う者がいません

飛距離系スタッツは、敵う者がいません

デシャンボーの今季のドライビングディスタンスは323.9ヤードと、誰も超えることができない領域に入っている。そして、今大会の6Hのように、時には400ヤードを1打で届かすことも可能に。影響したのか、飛距離規制を検討するUSGAとR&Aの動きもある。

ワンプレーンの追求、ワンレングスアイアン、塩水に浮かべてボールを選び抜く、サイドサドルパターの追求、アームロックパターの追求、肉体改造の追求と、自ら信じた道を切り拓いた結果、到達したのは飛距離だけではない。巧みなラフからのウェッジショットや、冷静なパッティングなど、強烈な個性と同時に高いパフォーマンスを努力で勝ち取っている。

このパフォーマンスに、ボールが無関係なはずがない。

『TOUR B X』ボールは、インパクトで変形の大きい領域では、ボール内部の大径ハイドロコアとハイスピード・インナーカバーにて高初速を追求する。また、アプローチ領域では操作性を高めるため、衝撃吸収材を配合したREACTiVウレタンカバーで低初速を追求。追求をやめない科学者の景色や欲求にとことん応える。
飛ばすだけではなく、卓越したボールコントロールにも目を向けねばなりません(GettyImages)

飛ばすだけではなく、卓越したボールコントロールにも目を向けねばなりません(GettyImages)

1打差で敗れたリー・ウェストウッドが「見ていて楽しかった」と振り返り、【あれほど飛ぶのに、真っすぐ打つのは並大抵のことじゃない】と話すのは、同じ選手だからこそ、凄さが分かるのだろう。そして、伝統的なゴルフの領域を押し広げ、優勝を争う選手にすら、楽しみを提供するとは……。

「デシャンボーの通った後にも、道はできる」のかもしれない。そうして、ゴルフの歴史は紡がれてきた。

ゴルフは数ある競技の中で“最長距離”を誇る球技。「ドラコン競技」という分かりやすい魅せ方もあったが、デシャンボーは従来のストロークプレーの中に、極めてエキサイティングな魅力を提供し始めた。そんなプレーは、ゴルフ初心者やゴルフファン以外の興味をも惹きつけるはず。

“観る”たびに新たなゴルフの魅力を提供し、我々をワクワクさせてくれる男が、今後どんなシーンを魅せてくれるのか。マスターズに向け、楽しみは尽きない。そして、あやかりたい訳ではないが、彼と同じボールを選び、次のゴルフはいつもよりエキサイティングに、ドラマチックにプレーしてみたい。

Text/Mikiro Nagaoka

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