「樹脂インサート」なら何でもいいわけじゃない
「『ホワイト・ホット』インサートをアイアンに例えると、軟鉄鍛造のマッスルバックやハーフキャビティと同じ位置づけになるのではと思っています。多くの人がその打感・打音、ボールのスピードなどに慣れ
親しんで、定番化されていきました。
いろいろな素材や加工を施したテクノロジー系のインサートも開発してきて、特に『マイクロヒンジ』系のインサートは、ボールに初めから順回転を与えてコロがりを良くしますが、それらは今どきのディスタンス系アイアンのようなイメージ。いずれにしても、全てのインサートのベースとなり、開発のベンチマークとなったのが『ホワイト・ホット』。
ボールのカバーと同じウレタン素材同士が衝突すると、ソフトフィーリングで反発性がよく、ボール初速が出やすくなります。このフィーリングの良さが2000年台に多くのゴルファーの“基準”となったことは大きく、現代のツアープレーヤーの多くもこの『ホワイト・ホット』の打感・音・初速などが基準になっていますね」(寺門氏)
この樹脂インサートの“金字塔”が生まれた歴史を振り返ってみよう。
振動吸収に優れた「ストロノミック」は硬い2ピースや3ピースボールが主流となりつつあった時代にピッタリだった。打感だけでなく方向性にも優れていて、それまでの摩擦係数の低い金属フェースではボールがフェース上で滑りやすいのに対し、樹脂製のストロノミックは摩擦係数が高く、滑ることなく思った方向に転がしやすかった。
「打感が軟らかい糸巻きボールの時代は、金属系(一体型)のパターで打っていました。でも、2ピースや3ピースなどフィーリングが硬いソリッドボールにシフトすると、金属系のパターでは打音が高くて弾き感が強く、ツアーの高速グリーンでは飛びすぎるのが不安で打てなくなってしまう。
そこで『ストロノミック』の樹脂インサートの衝撃吸収性が機能したんですね。でも、ストロノミックにも問題がありました。衝撃を吸収するということは、反発も少なくなるということ。ボール初速が出ないため、思ったよりショートすることも多かったんです」(同)
創業者イリ―・キャロウェイの一言が全てを変えた。「ボールのカバーと同じ素材にしてみたら?」
「ボールは飛ばすことが大きな目的のものであるため、ウレタンカバーの素材も反発力は充分。異素材をぶつけるとエネルギーロスが生じるところ、同じウレタン素材だと、インパクトでのエネルギーダウン率も低く抑えられる上、フィーリングもソフト。もちろん、ストロノミック同様に摩擦も高く、方向性もいいんですね」(同)
同時に、2つのボールサイズのアライメントが並ぶ『2ボール』も多くのプロゴルファーが愛用。アニカ・ソレンスタムも『ホワイト・ホット 2ボール』を使用して勝ちまくり、賞金女王、最強女王の名を轟かせ、日本でも大きな話題となった。この辺りは、キャリアの長いゴルファーには説明不要だろう。『ホワイト・ホット』を何本も所有、いや、使い続けている人もまだまだ多いはずだ。
20年連続、世界のツアーでオデッセイは使用率1位
この金属+ウレタンという組み合わせは、代々追求が進み、2015年の純回転を目的としたテキスチャーを付けた【フュージョンRX】インサートも記憶に新しい。純回転という意味では、2017年に金属製のヒンジでより純回転をかける【マイクロヒンジ】以降にもつながっている。
『ホワイト・ホットOG』は何が新しいのか?
「プロでも“ここぞ”というパットでは、プレッシャーがかかって打ち切れなくなったりするものです。そういう時でも『ホワイト・ホット』インサートは、反発が程よくあるから助けてくれる、球がコロがってくれる、といった評価をよく聞きました。
そしてもう一つ。フェース面をくり抜いて軽いウレタンをインサートしているので“キャビティ効果”があるんです。慣性モーメントが大きくなりミスに寛容なこともあって、どんどん広まったのでしょうね。今も、自分のパターに『ホワイト・ホット』インサートを入れてほしいという選手は多いです」(同)
筆者も新しい『ホワイトホットOG』を打たせてもらったが、初代よりも打球音がやや大きく、その点から「もしかすると、インサートが薄くなった?」と想像したのだが、厚さは同じとのこと。そして、初代との違いが明らかだったのは、その見た目。精密ミルドでバキッとシャープな印象が与えられ、ヘッド重量も当然初代とは異なる。
20年前のものより現代風に重量を増し、ソールのトゥとヒールに2つのアジャスタブルウェイトが配置された。ちなみに、『OG』は『Old Gangster(古き良きもの)』を意味する。また、初代『ホワイト・ホット』は使用するうちに打点の塗装がザラつくなどの経年劣化が見られたものだが、復刻された『ホワイト・ホットOG』はそういった心配もない。
また、当初『ホワイト・ホットOG』は日本のゴルファー向けに企画されたものだったという。しかし、世界中のゴルファーに親しまれる『ホワイト・ホット』のこと。グローバルモデルに昇格し“日本発・世界行き”のパターだった。
であるからこそ、筆者はこんな想いを強くする。今後ツアーボールの素材や構造に革新的な変化が訪れない限り、【ホワイト・ホット】は今後20年も「樹脂インサートの金字塔」の地位を守り続ける可能性が高いだろうと。
なぜなら、パッティングの距離感だけは、弾道計測器ほかデータ分野が進化しても、本質的には人間の“直感”がものを言うものだから。どれだけ時代を重ねても、スコアに最も影響するのは、【自分の思い通り】が実現する、フィーリングに優れたパターに他ならないと思う。
Text/Mikiro Nagaoka