<マスターズ 初日◇9日◇オーガスタ・ナショナルGC(ジョージア州)◇7565ヤード・パー72>
1963年に始まった「マスターズ」伝統の“名誉スターター”が今年も行われた。1963年にジョック・ハッチンソンとフレッド・マクラウドがオープニングショットを放って以来、オーガスタ・ナショナルGCにおける恒例行事だ。
午前7時25分、米ツアー通算24勝を誇るゲーリー・プレーヤー(南アフリカ/90歳)、73勝のジャック・ニクラス(米国/86歳)、39勝のトム・ワトソン(米国/76歳)の3人が、早朝から集まったパトロンたちの拍手と歓声を受けながら登場した。
先陣を切ったのは、プレーヤーだった。ティイングエリアへ向かう際には、「俺は90歳だ」と言いながら腰を痛めたふりをするユーモアを見せ、場内を沸かせた。その後、強い弾道でフェアウェイ中央にボールを放つと、右足で自身の胸の高さまで上がるほどの勢いある大胆なキックを見せた。これにはパトロンたちも大興奮。盛大な一発目となった。
「1番ティで感じるあの観客の熱気。人生において“情熱”は欠かせない要素だと思うが、あの場所で受ける愛情は本当に素晴らしいものだ。面白いことに、すぐに昔の記憶がよみがえる。そして毎年ここに戻ってこられることが、人生の大切な一部であると感じた。年齢を重ねると大切になる言葉は『感謝』だと思う。1番ティに立てること自体が名誉だ」
次に打ったのは、ニクラス。低いボールで左サイドにいるパトロンたちの真上を通る弾道に、胸をおさえ「あぶない…」といい「フォアー!」と叫んだ。「打つ前に『両側に広がってくれ。誰もケガさせたくないからね』と言ったよ。もしもっと近かったら当てていたかもしれない。正直、頭の中にあったのは『誰も傷つけないこと』だけだった。でもマスターズをスタートさせるのは本当に光栄で特別なことだ。素晴らしい場所だし、ここにいられること自体が特別だ。もう何年もやっているが、本当に特別な経験だね」と会見で熱く語った。
最後に打ったのはワトソン。ニクラスが置き忘れたティを見て「使ってもいいのかい?」とひと言。場内は笑いに包まれた。その後は力強いスイングで完璧なドローボールを放った。
会見では「私が初めてマスターズに出たのは1970年、アマチュアのときだった。朝早くダグ・フォードとスタートしたんだ。その前に名誉スターターを見に行ったが、それはとても特別なものだった。あれは大会の“オーラ”の一部であり、自分もそれを目撃したいと思っていた」と“見る側”だった当時を振り返る。
報道陣から『今後も続けて行きたい?』と聞かれると、ニクラスは胸の内を明かした。「どうだろうね。実は5、6週間前に手根管の手術を受けて、クラブを握れるのか心配だった。誰かに当てるんじゃないか、と。幸い人の頭を越えていった。いいショットではなかったけどね。ゴルフはほとんどやっていない。今年は1回、去年も1回だけ。でもこのセレモニーは本当に素晴らしくて、招待されるのは光栄だ。誰もケガさせない限り、できるだけ続けたいね」。
名誉ある儀式はこれからも新たなレジェンドへと受け継がれ、長く続いていくことだろう。(文・高木彩音)
