白熱のシーズンが終わった国内女子ツアー。今季全36試合を振り返り、大会ごとに印象に残った“1シーン”を紹介する。
■リゾートトラスト レディス(5月29~6月1日、徳島県・グランディ鳴門ゴルフクラブ36、優勝:稲垣那奈子)
2025年の女子ツアーで、ひときわ鮮烈な“初優勝シーン”として刻まれたのが、稲垣那奈子の勝利だった。2023年のプロテスト合格から1年。QTランク47位で迎えたルーキーイヤーの序盤に苦しみながらも、ツアー本格参戦14試合目でつかんだ価値ある1勝だった。
最終日は青木瀬令奈、三ヶ島かなと首位で並ぶ初の最終日最終組。2組前には勢いに乗る神谷そらもいた。シーズン4試合で予選通過1度、最高順位は14位。実績では明らかに分が悪かったが、それでも勝ち切った。
最終18番パー4。2打リードで迎え、ピン手前14メートルからのバーディパットを前に初めてリーダーボードを確認。3パットでも勝てる。そう理解した瞬間に肩の力が抜け、段上に切られたカップをしっかりオーバーさせて2メートルに寄せ、落ち着いて2パットで締めた。4日間で唯一のオーバーパー「73」でも逃げ切れたのは、冷静なゲームメイクの証しでもあった。
ホールアウト後、「うわっ! 優勝しちゃった!」と満面の笑み。グリーン脇には幼なじみの山口すず夏、同期の高木優奈らが駆け寄り、目に涙を浮かべた。
稲垣は10歳でゴルフを始め、高校時代にプロを目指しながらも、進んだ道は早稲田大学。女子ゴルフでは、高校卒業後のプロ転向が“主流”。だが稲垣は「勉強したいことがあった」と迷いなく進学を選び、技術も体力も足りないと感じた自身を鍛え直してからプロの門を叩いた。
その結果、早大卒として初、東京六大学出身者としても初となるツアー優勝者となった。大会週は多くの上位選手が「全米女子オープン」に参戦しており、世界ランキング上位者も不在だったが、稲垣のプレーは“運”だけでは説明できない。重圧をまったく見せず、表情ひとつ変えずにバーディを積み重ねる姿に、キャディの小畑貴宏氏は通算12勝の小祝さくらを重ねていた。
「(優勝は)早かったなぁと思います。アマチュアのときは全国で勝てるような選手じゃなかったし…。でも将来は海外で戦える選手になりたい」
2021年「関東女子学生」以来となる2つ目の大きなタイトル。世界ランキング398位の24歳(当時)が、ツアーの歴史に小さくない足跡を残した。
