「PGAツアーは、65%がマレット型に」
―― ビルさんが初代『スパイダー』を作ってから15年近く。当時はPGAツアー選手の約8割がブレード型ユーザーだったと思いますが、最近マレット型ユーザーがかなり増えた気が……。現状はどんな比率ですか?
ビル・プライス 直近のPGAツアーのマレット型ユーザーは、試合にもよりますが、約60〜65%にもなります。13年前くらいはマレットとブレードの比率が2:8くらいだったけれど、今はブレード型ユーザーが30〜35%くらいに落ちました。完全に逆転した理由は、ツアーのデータ環境やストロークの変化など、様々な背景があります。
―― なるほど。後ほど聞きますが、たしかに今は強いプロがみなマレット型。昔は強い男子プロはブレード型で、女子プロの方がマレット型を使う印象でした……。
高MOIと、トラスネック、どちらがブレに強い?
ビル・プライス 一例を挙げましょう。例えば、普通のクランクネックのブレード型だと、10mmトゥ側に打点を外すと3〜4度もフェースが開いてしまいます。でも、スパイダーのように高MOIのヘッドでブレを抑える場合は1度くらいに開きを抑えられます。トラスネックのブレード型だと、同じ打点で2度くらいに抑えられるテスト結果が出ています。
―― なるほど、どちらも通常ネックのものより、フェースブレに強い効果がある。つまり、トラスネックの打点ブレへの強さと、高MOIヘッドがもし合体したら【最強パター】と言うことですよね?
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―― はい、分かりやすい!カールスバッド(ロサンゼルス近郊)が拠点のビルさんらしいし、日本人好みな例えで恐縮です!
ひたすら高MOIなら、それでイイ?
ビル・プライス だから、『スパイダーGT』シリーズでは、両サイドにウェイトを持ってきて、4:2:4の左右の重量配分で、重心深度を30mmと深くし過ぎることを避けました。従来の『スパイダー』など高MOI系パターは38〜40mmとかなり深重心でしたが、これだと選手の操作性に問題が出るケースもあります。そうした理由から、ツアー投入した『スパイダーGT TM1トラスヒール』は、重心深度を31mmに抑えましたが、MOIは5000g・cm2に高めています。
ビル・プライス そう、その上『スパイダーGT』シリーズには、48°の下向きの溝がついたフェースで順回転もかけやすくなっていますよ。
通常のセンターシャフトは、ある意味「最強だが、難しい」
ビル・プライス はい。日本はセンターシャフトが売上上位にくることもある珍しい国ですよね。実際、シャフトの延長線上で打てたら、センターシャフトは最強のパターだと弊社エンジニアも言っています。ただ、それは打点がブレずに打てた場合の話。ツアープロでも「その打点で打って」と言って打てるプレーヤーはほぼいません。
国内女子プロも普段真ん中で打つ練習をしていても、試合では多くがトゥ側に外します。だから、理論上打点が合えば最強のパターでも、一本吊りの通常のセンターシャフトは非常に難しい結果になっているのです。ただ、トラスセンターなら30〜40mm幅の3点で支えられた幅中で打てるので、例えば、左右に打点を20mm外しても大丈夫なやさしいセンターシャフトと言えます。
『スパイダーGT TM2』こそ、最強?
ビル・プライス ご想像にお任せしますが、ツノ型の『バンドンTM2』のMOIが4400くらい。その点、『スパイダーGT TM2』だとMOIが5000くらいと大きな違いがあります。
―― うわっ、そんなにMOIが違うのか……。『バンドンTM2』のトラス幅の方が広く見えますが、『スパイダーGT TM2』もトラスセンター構造だし、MOIがこれだけ違うとコレこそ「最強のパター」になるような気がして仕方ないですね……。ただ、前から疑問ですが、これだけ日本でトラスが人気なのに、なぜPGAツアー選手が使わないのですか?
海外では、コロナの影響が大きかった
メディアの皆さんが細かくエデュケーションするのが一因かも。海外では「どのブランドが好きか」が主な判断要因ですし。あとは、「クインテック ボールロール」と呼ぶ計測器を活用して、我々が選手たちの転がりの精密なデータを膨大にとり、エビデンスで案内することでより理解が深まったこともあると思います。
―― 真野さん、コレは日本のツアーでも同じですか? どんな状況か説明してください。
えっ!?日本人の方がファクト重視?
中島啓太くんもアマチュアですが、以前のパターと膨大なデータを比較して、『トラス』優位を納得のもとに勧められました。もちろん、選手の技術面もありますが、どんなデータ傾向が出るかを可視化・納得して向上できる環境を我々も用意できていますね。
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ビル・プライス そう、アメリカのコーチ陣は、「どういうものを使わせたい」といった判断がより働いている気がしますね。日本コーチの方がより「ファクト重視」というか。これはスタイルの違いなのでどうこう言うつもりはないですが、日本の方がファクト・データ重視傾向が強いと思います。
―― なるほど。では、次回はPGAツアーの最新トレンドについて聞きますね!
Text/Mikiro Nagaoka