契約フリーになって5年、ず〜っとヨネックスのアイアン
プロゴルファーにとって「クラブ契約 = 多大な収入源かつスポンサー」となるのがこれまでの常識である。でも、池田勇太はそうしない。「契約していない選手が工場見学だなんて、いったい何が目的なの?」と、筆者は当初激しく困惑した。
だが、聞くほどに、ゴルフに真面目な彼とヨネックスの“濃い関係”が見えてきた。まず、クラブの研磨、組み立て工場での第一声が下記だ。
“カーボン技術と研磨技の融合で
ヨネックスは要望するほど
良いものを作ってくれる”
スタッフ各々の顔と名前を覚え、同社のスタッフ側も実にフランクに池田に接する。これまでツアー会場で“おっかない”池田を目の当たりにしてきた筆者は面食らった。上も下もない、笑顔で一緒に働く同僚といった両者の“あまりの近さ”に困惑した。
「クラブ契約フリー選手とメーカー、しかも、製造スタッフとこんなに親密な関係なんてあるのか!?」。正直、しばらくはそんな疑問が頭から拭えなかった。
“技術屋”同士に忖度なし。互いを高め合うWin-Win関係に
ボクら選手はプレーヤーの感性で改善してほしい問題を伝えるけど、ヨネックスは会社としてもスタッフ一人ひとりとしても、それに応える解決方法の質も量も違う。創造性というのかな。お互いを高められるし、その先のゴルファーの方々の幸せのため、一緒に動けるのがいいよね」(池田勇太)
ところが、だ。クラブにもゴルフにも真剣が故、その言葉は時には強くなる。この日の練習時、ツアー担当の大木氏(販売促進課)への“圧”は強かった。コンマ数グラムの鉛の重さの違い、貼り方、シャフトや長さの調整など、テストするバリエーションは多岐にわたるが、池田は全てを入念にテストし、取捨選択を繰り返す。
「いや、本質を突き詰めるプロ同士として有り難い限りです。彼のクラブへの感性は本当に鋭く、一切妥協がないので常に我々の対応力・技術力が問われます。私やヨネックスへの気遣いなんて不要です。彼は生粋のクラブ好きで、その先のゴルファーを見ていて、根っこの部分は我々と全く同じなので」(大木氏)
この辺りは、まさに信頼し合う「チーム」の関係と言えるだろうか。選手とメーカー、なにより“契約”という大人の事情の垣根すら越え、互いを高め合うためのウィンウィン関係を築いていた。
特に、カーボン技術と研磨技の融合には度々感嘆の声を漏らし、「熟練の研磨師から若い女性まで“熱”が違う。選手としての使い勝手を隅なく聞いてきて、みなそれぞれが改善を狙ってくる」と、同社のスタッフ一人ひとりの“人”にも惚れ込む池田だった。分かってはいたことだが、やはりこの男、熱い!