“オデッセイのスパイダー”こと、『ストロークラボ ブラックシリーズ TEN』。なぜ、オデッセイがテーラーメイドの形状を真似しなきゃいけないのか。気になるこの直球質問を、来日していたMr.オデッセイこと、オースティ・ローリンソン氏に直撃してきました!長くなるので、その前編です…
「SUPER MOI シリーズ」こと、オデッセイ『ストロークラボブラックシリーズ』の『TEN』と『バード・オブ・プレイ』
【質問1】 なぜスパイダーそっくりの『TEN』を作った?
オースティ: 『TEN』はとにかく高いMOIのパターを開発したかったのが理由なのですが、たしかにどこかで見た形ですよね……。他社にも後ろにウェイトのある形状がありますが、我々も昔『FT-i』というドライバーで四角いものを開発したことがあります。『FT-i』はMOIを高めるために後ろの角にウェイトを置いているんですね。その応用というか、他社も含めてMOIを高めるためにはどうしてもそこに行き着くというか……。
「この3社もスパイダーの真似してるでしょ!」ってこと!?
ルーク: だからこういう形状を出したんですね。
確かにテーラーメイドがやり始めですが、その後、いまPING、PXG、そしてスコッティ・キャメロンでも似たような後方ウェイトの形状がありますよね。でも、
オデッセイにこの形状は無かった。他社がやっているのに、我々がやらないのはディスアドバンテージになることもあり、我々も『TEN』をご紹介することにしたんです。
真ん中部分はABSという名前のTPU素材で軽量化。音が良くなるそう
オースティ: 『TEN』は上から見ると、我々の#7と共通して見えるところも見え隠れしています。ひっくり返すと、ソールの真ん中部分の素材を実は替えています。ポリマー系のABSというプラスチック素材を使って、軽比重素材で中を軽くすることによって我々が得意なフリーウェイトを捻出しています。それを外周に配置、敷き詰める形でMOIを高くして、ウェイトも15gなんですけど、こう配置しなければいけなかった。なぜなら、ポリマー素材は打った時の振動を吸収する素材でもあるから。結果的に、異素材複合することで、他社よりも10〜15%慣性モーメントを引き上げることができたんです。
新しい溝なしインサートで、音量大・スピン安定
既存の『ストロークラボ』(左)には、ヒンジとヒンジの間に段差がありました
オースティ: 加えて、今回は太めのアライメントである「ハイディフィカルト・アライメント・システム」を採用することで視覚効果も良くしていますし、新しいフェースインサートも採用しています。今回のインサートは「ホワイトホット・マイクロヒンジ★インサート」といって、既存の『ストロークラボ』に採用されているものとの違いは、ヒンジとヒンジの間に段差があったものを、今回から埋めました。この間を埋めるメリットとしては、音が少し大きくなります。実は、既存の『ストロークラボ』は、ツアープレーヤーにとって「音が少し足りない」といった声がありました。そこで、昨年からこの溝をとったバージョンのプロトタイプを選手に試してもらって出来たものです。
音がしっかり出るようになって、打感も『ストロークラボ』の時よりややしっかりになったこともあります。あと、溝を埋めることで、我々の予想を覆す驚きもありました。溝を埋めると、ヒンジのトップスピン効果が薄れてしまうのでは?と思っていましたが、溝を埋めてもトップスピン効果が変わらないばかりか、トップスピンの具合が常に安定することも判明。そればかりか、芯を外した時でも、打球音までも安定する効果が確認できました。
【質問2】 センターシャフトは日本だけ。なぜアメリカ人は使わない?
ルーク: 今回の『TEN』にはネックの種類も、ダブルベンド、ショートスラント、センターシャフトも用意していて、センターシャフトは日本だけのご用意になっています。アメリカにはセンターシャフトの需要はあまりなくて、ツアーにおいては一部需要はありますが、日本が世界で見ても圧倒的に需要が多い状況ですね。やはりプロツアーの影響はパターの場合は大きくて、日本だとセンターシャフトの市場が大きくなりますが、アメリカではそこまでではないですね。
先程言った、ハイデコアライメントを邪魔したくないので、直接ヘッドに挿すことをやってないですね。過去には『テロン』なども、同様にアライメントを邪魔したくない際には、このホーゼルを採用したりしていました。日本のツアープロのストロークを見ていると、アメリカと違ってフォワードプレスを入れるプロが少ないため、センターシャフトが好まれるというのはあるかもしれないですね。
【質問3】 大MOIは『バード・オブ・プレイ』だけで良くない? 『TEN』は必要?
オースティは、『バード・オブ・プレイ』の方に強い思い入れがあるようです…
オースティ: なぜ『バード・オブ・プレイ』も必要だったかと言うと、我々は「スーパーハイMOI」シリーズとして、実は2つとも開発を走らせていました。そのハイMOIという定義は、慣性モーメントの数字が5500以上という括りです。ただし、パターというのはゴルファーの好みはそれぞれ異なり、特に、『バード・オブ・プレイ』に関してはサイズが『TEN』よりも大きくなります。大きくなるほどMOIは高くすることが出来ますからね。この2つとも我々が今まで持っていなかった形状ですし、リフレッシュする意味で、2つの形状を「スーパーハイMOI」ファミリーとして用意することになり、新しいものを提案することになりました。
ツノの張り出し方的には、初代『スパイダー』の方が似ていますね…
ルーク:
テーラーメイドの『
スパイダー』と似ているが、何が違うか? もちろん、先程言ったように、
テーラーメイド『
スパイダー』に似た形状のものを、既に他社がたくさん出している中で、こういう形状が市場で受け入れられている、ゴルファーが求めている事実は認めなければなりません。そして、このような新形状を我々もトライする中で、アライメントであったりインサートであったりと、我々独自の他社より優位性を持つ技術を採用出来ていると思っています。
こういった似た形状が他社から生まれることは、過去にも往々にしてあることです。一世を風靡した我々の『#7』(ツノ型)や、PING『アンサー』型もそうですよね。いま、様々なメーカーで似た形状が当たり前のように採用されています。Mr.オデッセイでさえ、「この形が受け入れられるとは…」と、転換点となった『ホワイトホット2ボール』
オースティ: そんな中で、社内で長時間議論を重ね、この形状に一定の世界観を
スパイダーが築いてきた中で、長期に渡って支持もあり、こういった形状を求めるゴルファーがいる。それを求めるゴルファーがいる限り、応えることが大切だと考えています。
もっと深く言うならば、このネオマレットブームと呼べるものの起点には、我々の『2ボール』があると思います。
私自身、出す前は「こんな変テコな形状が受けるのだろうか?」と半信半疑でしたが、発売されると世界で爆発的なヒットを記録しました。これを機に、私自身もそうですし、様々なメーカーが「こんな形でも受けるんだ」と、発想が広がったというか、奇抜な形状に対するリミッターが解除された気がしています。その後の流れの中で、『
スパイダー』のヒットもあったと大枠では記憶していますね。
ただ大きいだけじゃダメ。我々は失敗から学んでいる
左は『ホワイトスチールSRT Tri-BALL』。右は昨年発売の『EXOロッシー』で、赤い部分は軽いアルミ製です
ルーク: 新しいものじゃなく、既存のものの中で考えればいいじゃないかと考える人もいると思います。そして、既存のものの中にも学べることがたくさんあると思います。世の中に新しい価値を提案して、良いものが出来たと思っていても受け入れられない、売れないものも過去にはありました。ただ、慣性モーメントを大きくすればいいという考え方もありますが、過去に『トライボール』という8000台の巨大なMOIのものを出しましたが、「大き過ぎる」とサイズが受け入れられませんでした。ただ、MOIを高くすることが出来たとしても、テクノロジー自慢で終わってしまうんですね。大きいだけではダメだから、それを小さくしていこうという学びですね。
その流れの中で、昨年は『EXO』という普通のマレットサイズの中で大MOIのものを出しましたが、これも我々が思うほどの成功は得られませんでした。だから、新形状にトライしようと。大きいだけじゃダメ、複合素材(EXO)をやってきたけど、いまいちだった。じゃあ、それら全部の学びを結集して、新しいものを作ろうとしたのが今回の『TEN』と『バード・オブ・プレイ』なんですね。『TEN』は先程真ん中部分がTPUだと言いましたが、それは『EXO』のアルミニウムボディの軽量化から来た学びですね。アルミニウムだと、音が微妙だというフィードバックもありましたし、今回のABSというTPU素材だと音が改善できました。そこは『EXO』からの反省が活きてますね。
強烈なMOIを誇る『HAVOK』。これを小さくしつつMOIをキープしたのが『バード・オブ・プレイ』とのこと
オースティ: そして、『バード・オブ・プレイ』に関しては、『ホワイト・ホット プロ HAVOK』の反省が活きています。『HAVOK』はサイズが大きくて非常にハイMOIでパフォーマンスも良かったのですが、やはりこちらも音のフィードバックが悪かったのです。この反省を活かして、『バード・オブ・プレイ』は隙間のある形状ながら、音の反響を改善しています。しかも、
チャレンジングなのは、普通のマレットのサイズの中で、どれだけ慣性モーメントを大きくできるか?相反することを、オデッセイらしさの中でどう達成できるか?にトライしています。やはり、既存の形状でも出来ることはあるのでしょうが、マーケットが求めること、プロのフィードバックが伴うものをきちんと新しいものを開発して評価されたい。そんな想いから、この「スーパーハイMOI」シリーズは生まれています。
【後篇へ続く】
Text/Mikiro Nagaoka