甲斐 「ドンピシャは60Xかな…」
「さっきから、どのフレックスでもストレートしか出ないっておかしくないですか? 甲斐さんから打ちたいフレックスを要望されると、その事前情報でいかようにでも真っすぐアジャストしてしまうはず。だから、これからどのフレックスを手渡すかは、ボクが決めます。フレックスを見ずに打ってください!」(筆者)
この筆者の要求に、甲斐氏は驚きながらも「いいですよ、分かりました。フレックスを見ずに厳しくブラインド試打しましょう」と応じる。まず、筆者は次に【70X】を手渡した。今度こそ、甲斐氏は球を曲げるはずだ。なにしろ、ヘッドは軽量で192g前後の『TS1』。バランスが出ないし、重量・剛性の上がったシャフトで振りづらくなるはず。(しかも、一度40g台のシャフトの辺りをガチャガチャと選ぶ、フェイント動作を入れておいた)
甲斐 「めっちゃ打ちやすい。全然よじれない」
【70X】でさらに飛距離を伸ばしながらストレート弾道を連発する甲斐氏から強引にクラブを奪い取り、最も重くて硬い【80TX】に差し替えて手渡した。だが、筆者の思惑もむなしくまた1球目からストレート弾道……。筆者の万策は尽きてしまった。(泣)
「甲斐さん、マジで勘弁してほしいです。元ライバル社のシャフトメーカーの立場で、厳しくチェックしてもらうつもりだったのに、こんな結果、そのまま書くと甲斐さんが古巣を辞めた瞬間から三菱派になったとゴルフ業界から思われてしまいますよ!?
だって、『TS1』という軽量ヘッド1つで【40R2】から【80TX】まで、全部ストレート弾道の同じ結果なんて、そのまま書いたら結果を捏造したと思われちゃうじゃないですかッ! 本当のことを書いてウソだと疑われるボクの身にもなってくださいよ!」(筆者)
「そんなこと言われても、しょうがなくないですか? 普通に打ってるだけですけど……。でも、さすがに最後の【80TX】だけは、切り返しですごくシャフトの重さを感じてしまったので、飛距離が落ちてしまいましたよ? まったく左右にはよじれてないですけど……(苦笑)」(甲斐氏)
甲斐 「打点を左右に外しても、ヘッドがブレない」
「長岡さん、分かってませんよね(苦笑)。このシャフトって、中間の動きで走るフィーリングがあるのに、先端は動かない特殊なシャフトです。だから打点をトゥやヒールに外しても、ヘッドが影響を受けづらいから曲がらないし、スピン量も増えないんです。三菱が【集大成】と言うだけありますよ。振るスピードを落としたって、もっと曲がらないに決まってるじゃないですか。
さっきから、長岡さんには言っていませんが、各フレックスでマン振りのハードヒットとか、いろいろボクがやっていたのを知ってますか? それで、これだけ球がよじれないから驚いているんです。先だけピュン!と走るシャフトなら分かりますけど、このシャフトで【バントしたら曲がるはず】なんて、全然甘いですよ」(甲斐氏)
シャフトに極めて厳しい目を持つ甲斐氏。「甲斐氏なら、厳しく評価してくれるはず」との筆者の当初の見立ては、脆くも崩れ去った。が、最後に甲斐氏は、長年シャフトのテスターを努めてきた経験からこう言って去っていった。
「ボクはインパクトでヘッドを返したりせず、フェース開閉の少ないスイング。そういう人は特に『ディアマナZF』の恩恵を感じやすい。かたや、ギリギリまでタメてインパクトで右手を返しにいく開閉の多い人は、このシャフトだと強烈につかまると感じるはず。ただし、逆球がほとんど出ないシャフト。そんな人でも右への吹け球やスライスは出ません。
リシャフト経験の多い競技志向の人は、【先だけ走るシャフトは、飛ぶけど左右どちらにも曲がる】と思う人も多いと思います。でも、『ディアマナZF』はそういった先だけ走るシャフトとはまったく違う。フェース開閉が穏やかなスイング、慣性モーメントの大きなヘッド、そういう今風な要素で曲げずに飛ばしたいなら間違いなく薦められます」(甲斐氏)
Text/Mikiro Nagaoka