「大学時代の僕は、それはそれは貧しかった。失うものは何一つなかった」
苦しみを乗り越え、精神的に強くなるという経験を、スピースはプロになる以前に人間として味わった。だから、プロになったときの彼は、すでに人間的に少し大人だった。
だが、そんなスピースでも、オーガスタのサンデーアフタヌーンの戦いではバッバ・ワトソンに勝利を阻まれた。ワトソンのような選手がいたことでスピースは勝たせてもらえなかった。その理由は、スピースが少し大人になった以上に、スピースより格段に年上のワトソンがさらに成熟していたからだ。ワトソンもマスターズチャンプになり父親になったこの2年間で苦労を重ね、乗り越え、精神的に強くなっていた。
そうやって、若者たちの成長や歩み以上に、大人の選手たちがもっともっと成長していく。だから、若者たちは、なかなか上に行かせてもらえず、勝たせてもらえない。それが米ツアーの層の厚さであり、それが現実であることを、しっかりと認識し、謙虚になれるかどうか。
夢を捨てる必要はない。卑屈になる必要もない。だが、自信と過信は別ものだ。謙虚な姿勢からしか現実は見えず、精神面の成長もない。強い選手になる以前に、成熟した人間になれるかどうか。若者たちの成功を左右するのは、間違いなく、そこだ。