とはいえ、昔のチャンピオンたちの大半は、やっとの思いで手に入れたグリーンジャケットを自宅のクローゼットで大切に保管し、クローゼットを開いてはひっそり眺め、特別な味わいを独り占めしていた。

だが、近年は、その味わいが少しずつファンと共有されるようになってきた。2010年大会でマスターズ3勝目を挙げたフィル・ミケルソン（米国）は、優勝会見が終わるやいなや、グリーンジャケットを羽織ったまま車のハンドルを握り、オーガスタ市内のドーナツショップへ向かい、ドライブスルーでドーナツを買って、周囲の人々に笑顔を振るまった。

2017年大会を制したセルヒオ・ガルシア（スペイン）は、グリーンジャケットを自由に着ることができる“期限内”に結婚式を挙げ、大勢の出席者にグリーンジャケット姿を披露した。

昨年大会の覇者、パトリック・リード（米国）は優勝者の慣例行事をすべて終えてテキサス州の自宅に戻ると、グリーンジャケットを羽織って愛車に乗り、近所の大好きなサンドイッチのファーストフード店へ愛妻と一緒に出掛けていった。ドライブスルーで対応した店員はびっくり仰天しながらリード夫妻をスマホで撮影。SNSで発信したリード夫妻の笑顔の写真は大きな注目を集めた。

マスターズ覇者たちは、そうやってグリーンジャケット姿で街へ繰り出し、勝利の証しを日常へ盛り込むことで、夢のような我が勝利が現実であることを実感しようとしていたのだろう。

勝者たちのうれしそうな姿を見るたびに、マスターズ優勝を目指す選手たちは一層駆り立てられ、羨ましさも感じたことだろう。もしかしたら、マスターズ優勝から14年も遠ざかってきたウッズとて例外ではなく、そんな勝者たちに羨望の眼差しをひっそりと向けていたのかもしれない。