言わされたわけではない。リップサービスでもなかった。勝つことに飢えている渋野日向子から自然と出た言葉だった。
「来年は出たいと思います。一番いいのは優勝しての凱旋ですよね」
21日に岡山・倉敷市で決勝大会が開催された自身が主催する「渋野日向子杯 第4回岡山県小学生ソフトボール大会」。表彰式後に会見した渋野は、来年の「宮里藍サントリーレディス」の出場に意欲を示した。実現すれば3年ぶりの出場。頭に描くのは、直前に開催される「全米女子オープン」を制覇しての凱旋帰国。誇らしげにホステス大会に臨む姿をイメージする。
2020年2月に所属契約を結んで以降、サントリーが主催するサントリーレディスに出場したのは23年の一度だけ。20年はコロナ禍で大会が中止となり、21年は4月の「ANAインスピレーション」(現シェブロン選手権)から6月下旬の「KPMG全米女子プロ選手権」まで米ツアー7試合に出場する長期の海外遠征で欠場した。22年からは主戦場を米ツアーに移し、全米と開催が同時期ということもネックになって、サントリーには、なかなか参加することができなかった。
だが、来年は全米が6月4~7日で、サントリーが同11~14日と一週ずれており、日程的には出場は可能。さらに全米開催コースの「リビエラカントリークラブ」はロサンゼルス近郊のカリフォルニア州にあり、移動には便利で、東海岸と違ってフライト時間も短くなる。これ以上はない好条件となる来年のスケジュール。あとは帰国に『凱旋』をつけることができれば、来年前半の大きな目標は達成できる。
今季は自己ワーストの年間ポイントランキング104位に沈んだ。81位~100位までの“準シード”からも外れ、Qシリーズ(最終予選会)をボーダーラインの24位タイという薄氷を踏む思いでクリアした。米ツアー5年目となる26年シーズン。一から、いやゼロからのスタートだからこそ腹をくくることもできる。
「あっという間に5年目…。主戦場をアメリカに移してまだ1勝もできていない。悔しさもあるし、いろいろ考えてしまうこともある。でも、自分はこんなもんじゃない。もっともっと変われる、もっともっと強くなれると思っている。それが今の自分の原動力です」
この日は自身も小学生のときに熱中したソフトボールをプレーする子供たちの姿に心が熱くなった。0-11の劣勢からも1点を全員で必死に取りにいく、ひたむきな姿に何度も涙が出そうになった。
「団体競技ってやっぱりいいな。ゴルフは1人の競技だけど、家族だったり、スポンサーさんだったり、チームのみんなとか支えてくれる人がいる。結局、1人じゃないんですよね。だから、諦めるわけにはいかない。応援してくれる人を悲しませるわけにはいかない。勝つしかないんです」
来年は同じ1998年度生まれの原英莉花も米ツアーに参戦する。総勢15人となる“チーム・ジャパン”で黄金世代は渋野、畑岡奈紗、勝みなみ、そして原の4人。世代の絆も渋野に力を与えてくれる。
「原英莉花は私の中では重要人物というか気にしている選手。過酷な(下部の)エプソン・ツアーを戦い、LPGAに這いあがってきたのは本当にすごいこと。覚悟を持って戦い、優勝もして目標を達成した。私はなにをやっているんだろう…と。奈紗ちゃん、勝みなみ、原英莉花。自分にいろんな気持ちを芽生えさせてくれる。一緒に盛り上げたいし、やっぱり負けたくないです」
そのなかでも、ともに2度目の挑戦でプロテストに合格した原は大きな存在。共闘による強烈な化学反応を渋野も期待している。
世界をあっと驚かせた19年の「AIG女子オープン」(全英)の優勝から6年が過ぎ、21年「樋口久子 三菱電機レディス」で日本ツアー通算6勝目を挙げてからも4年が経過した。忸怩(じくじ)たる思いに、来年こそピリオドを打ちたい。年末年始は地元で過ごし、年明けから本格始動する。自身の開幕は3月になりそうだが、「一日一日を必死で生きていると、一瞬で時間は過ぎる。間に合うようにしっかり準備したい」と語気を強めた。視線は真っすぐ。来年は土俵際からの下克上に挑むシーズンとなる。(文・臼杵孝志)
