ここ5年の間にスイング解析器とギアが目覚ましい進化を遂げ、300ヤードヒッターが急激に増加。「飛ばすなら曲がる」時代から「飛んで曲がらない」時代へ突入した。そんな世界のトッププロたちのスイングを、プロコーチの井上透氏が解説する。
体重移動より安定感を目的としたワイドスタンス
ドラコン選手のような体型とワイドスタンスだが、頭の移動量は少ない
米ツアー通算7勝のうち4勝がメジャーというブルックス・ケプカ(米国)。ここ3年の四大メジャーにおいては、11回の出場(2018年のマスターズを欠場)で予選落ちなし。優勝4回、2位2回、4位1回、6位1回と驚異的な強さを誇る。それゆえに、「メジャー以外はやる気がない」といわれることも。身長183センチ、体重93キロのゴリゴリのマッチョ体型で、300ヤードを軽々と超えてくる“メジャー男”のスイングを、最先端の理論に精通しているプロコーチの井上透氏が解説する。
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ケプカの正面から見たアドレスのワイドスタンスはドラコン選手みたいです。本当にデカく見える。ワイドスタンスですが大きな体重移動を目的とはしていません。バックスイングであまり頭が動いていないところから見ても、体重移動よりも安定感を目的としていると思われます。
インパクトで左ヒジが曲がるから、ボールがつかまる!?
切り返しで手首のタメを作り、インパクトで左ヒザを伸ばしながら左肩を上げることで強くボールを叩く。そのとき左ヒジは少し曲がっている
そして、コンパクトなトップのポジションから強烈な切り返しによって得たエネルギーを、インパクトで左ヒザを伸ばし左肩を上げることによって爆発させる。まさに強くぶっ叩くスイングです。
ケプカをはじめとする最近の選手は、インパクトで左ヒジが曲がっていることがあります。これはアマチュアゴルファーが引っかけるのを嫌って左ヒジが抜ける『チキンウィング』とはまったく質が違うもの。逆にフェースを閉めるために左ヒジが曲がるんです。
左手首を“掌屈”させると、左ヒジは曲がりやすくなる
バックスイングの初期では左手の甲を地面に向けるようにして、フェースをシャットに使う。左手首を手のヒラ側に折ることでフェースが開かず、左腕は曲がりやすくなる
ケプカは右手を下からフックに握っているんですけど、左手は横から薄め(スクエア)に握っているので、かなり大きな手首の掌屈動作が入ります。バックスイング初期を見ても、左手の甲を地面に向けるように上げてフェースを閉じている。トップでは左手の甲はほぼ真上を向いています。この左手首を手のヒラ側に折る掌屈動作と連動して左ヒジは曲がりやすくなるのです。左ヒジを曲げずに、これだけ掌屈させるのは難しいですから。
左手のグリップによって、左手首の角度は変わる
左手のグローブのロゴを見ると一目瞭然。ケプカはスクエア気味に握り左手首が折れるが、フリートウッドはフックに握って左手首は真っすぐになる。どちらもトップでのフェースの開きは少ない
トミー・フリートウッドのように左手をかぶせてフックに握っていれば、手首を曲げなくてもフェースを閉められるので、掌屈動作は必要ありません。ケプカがこのグリップで真っすぐ打つために身に付けた技ですね。それに、引き手として左ヒジが多少曲がっているほうがクラブを引っ張りやすいということもあるでしょう。この左腕があるからこそ、メジャーのような大きな舞台でも強く叩くことができるのです。
■解説・井上透
1973年生まれ。神奈川県出身。1997年からツアープロコーチとしてのキャリアをスタート。中嶋常幸、佐藤信人、米山剛などのコーチを務めた。現在は成田美寿々や穴井詩らを指導している。東京大学ゴルフ部監督としての顔も持つ。