ここでウッズの話が終わってしまったら、これは老い始めた選手の単なる愚痴になってしまう。だが、この先にポジティブな話が続くからこそ、王者ウッズなのだ。
「でも、長年やっていれば、逆にいいこともあるんだ。だからこそ、サム・スニードやトム・ワトソン、グレッグ・ノーマンたちは年齢を重ねても優勝したり、優勝争いに絡んだりできたんだ。どうしても年は取るけど、ずっと他の選手たちを肉体面で凌駕し続ける必要はないからね」。
ウッズが言った長年やっていればこその「いいこと」は、いわゆる経験を指しているのかと最初は思った。勝利、敗北、故障、復帰、スイング改造。長いキャリアの中で、いろんな経験を重ねてきたからこそ得た経験値を彼は「いいこと」と言ったのだと思った。
もちろん、それも含まれていたのだろう。が、このときウッズが言った「いいこと」は、そうした経験を積み重ねる以前のジュニア時代、アマチュア時代に遡るものだった。
理屈や理論を抜きにしてクラブを振っていた幼少時代。「あのころはスイングで体を故障するなんてことは無かった。両手から体へ、スイングへと伝わっていた感覚こそが究極なんだ。その感覚を呼び戻したい」。