勝利への強い想いを抱いて挑み、そして想いを遂げた2010年大会。表彰式で父親に電話をかけ、言葉を発しようとした瞬間、嗚咽にむせび、泣き崩れたワトソンの姿は、今でも私の脳裏に焼き付いている。
「あの優勝は父が見た最初で最後の僕のプロとしての勝利だった。そして同時に、僕自身が見た僕の確信でもあった」。このハイレベルな米ツアーで戦っていけるという確信。その確信が自信になり、さらなる勝利へ、マスターズ2勝へとつながっていった。
「僕がこの地で挙げたあの初優勝の3か月後に父は他界した。あのとき、5年後の今の僕は想像もできなかったし、もし5年前に戻って今を予言するのなら、父にも生き返ってもらわなきゃ。いや、そんなことはできないし、未来は誰にもわからない。でも僕は、自分がメジャーで勝つためだけにプレーする偉大なるゴルファーだなんて思ってもいない。僕の人生最大の夢は米ツアーで戦うこと。その夢から比べると、すでにメジャー2勝、通算7勝を挙げてきた今の僕は、僕が夢見てきた以上の僕になっている」
開幕前にそう言ったワトソンは、初優勝する以前の気持ちを思い出していたのかもしれない。ストレートすぎる発言がしばしば問題視されるワトソンだが、思い出深きこの地にやってきた今年のワトソンは、終始、謙虚で前向きで、「ここなら勝つチャンスがある気がする」と言っていた。
そのチャンスを掴み取って勝利を挙げ、思い出の地にさらなる思い出を加えたワトソンを眺めながら、再び先週のスピースの言葉を反芻した。「ネガティブな気持ちが来たら、その時点で、もう勝てない」