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あれは1995年大会。勝利に迫ったデーリーが、右こぶしを突き上げ、腕をぐるぐる回しながらフェアウエイを闊歩した姿が忘れられない。米国からやってきた荒くれ者の勇ましい姿を間近に眺め、スコットランドの大観衆は叫び声すら上げながら狂喜した。聖地を興奮に包み、プレーオフで勝利を掴んだデーリーは、以後、自身がどんなに不調になっても、こう言い続けている。「オレはセント・アンドリュースが大好きだ。米ツアーが全試合をあそこで開いてくれたら、オレは毎週でも優勝できるぜ」。
2000年に聖地で勝利したのは、タイガー・ウッズだった。あの勝利でウッズは史上5人目のキャリア・グランドスラムを達成。ジャック・ニクラスのグランドスラムから実に34年の歳月を経て達成された快挙。そしてウッズは2005年大会も制し「僕は初めてセント・アンドリュースをこの目で見た時から恋に落ちた。“I loveSt.Andrew”」と、聖地への愛を何度も口にした。
2010年大会の覇者、ルイ・ウーストハウゼンは、若き現代っ子のせいか、デーリーやウッズのような恋愛にも似た感情を言葉にすることはなかった。あの年は聖地が妙に好天に恵まれ、おまけに無風に近い穏やかな4日間だった。そんな「異変」を感じ取った選手たちは、英国リンクスのゴルフらしからぬ、むしろアメリカ流のゴルフスタイルこそが武器になると見定め、高い球で攻めていた。そんな臨機応変な対応を最も見事にやってのけたのが、勝者・ウーストハウゼンだった。
そう、英国リンクスは気まぐれで、瞬く間にその姿を変え、挑戦者たちに求めるゴルフも変えてくる。その気まぐれさを、往年のプレーヤーたちは、しばしば女性に例えた。だからなのだろう。彼らは全英オープンの舞台となるゴルフコースを語るとき、「she」「her」と女性になぞらえる。セント・アンドリュースは、その女性的な魅力が際立つ最も崇高な聖地。だが、それは同時に最も厄介な場所でもある。今年、そんな気まぐれな女神の心を掴むのは、果たして誰なのか。
今季、マスターズと全米オープンを制したジョーダン・スピースは、すでに年間グランドスラムの中間地点まで到達しており、全英オープンをも制することができるかどうか、勝って世界ランキング1位に躍り出るかどうかが世界的に注目されている。