あのころの石川は、フィナウの目には「輝かしいジャパニーズ・スター」の姿として映っていた様子。そして、フィナウの家族にとっては「この目で見ないわけにはいかない世界のスーパースター」だった。

フィナウの両親はトンガとサモアの出身だが、8人の子どもたちは全員、米国生まれの米国籍。フィナウは上から3番目だ。すぐ下の弟もプロゴルファーで当時は下部ツアーに参戦していたが、それ以外は姉も妹もずっと下の弟も、みなバレーボールやボクシングなど他のスポーツに夢中。ゴルフには無関心だった。

しかし、「ウチのトニーがジャパンのビッグスターの“あのイシカワ”と一緒に回るなんて夢みたい」と大興奮し、フィナウ一家は総出でラスベガスの試合会場にやってきた。そして「伸び伸びとプレーするイシカワの姿に心を打たれた」と、すっかり石川ファンになっていた。

ラウンド後、「フィナウ一家は遼くんを見たくて、ここに来たそうですよ」と石川に告げると、石川は「そんなのお世辞に決まってますよ」と謙遜しながら照れ笑いしていたが、石川は石川なりに190センチの長身が生み出すフィナウのダイナミックで、しかも正確性の高いショットに魅せられ、「アイアンの入り方が全然違う」と驚嘆していた。

秋風が吹いていたとはいえ、太陽が強烈に照り付けていたラスベガスの砂漠の中のコースをあの2日間、共に回っていたフィナウと石川は、その後、プレーする場所も歩み方も別々になったが、研究熱心で練習熱心、謙虚でひたむきな姿勢はどちらも変わらなかった。

折りしも、石川が日本ツアーの三井住友VISA太平洋マスターズを制し、2年11か月ぶりの優勝を飾った10数時間後に、今度はフィナウが米ツアーで勝利を挙げたことに、私は何かしら運命めいたものを感じずにはいられなかった。