2月4日にゴルフ用品事業からの撤退を発表したヤマハ。「INPRES」「RMX」シリーズ等のゴルフクラブの製造・販売や、JLPGAツアー「ヤマハレディースオープン葛城」の主催、藤田寛之や今平周吾、有村智恵など契約選手も抱えていただけに、ゴルフ業界に衝撃が走った。
2025年度におけるゴルフ用品事業の業績は、売上高33億円に対し、事業利益はマイナス10億円。ちなみにこの33億円は会社全体の売り上げの0.7パーセントに相当する。楽器・音響機器事業が主となる同社にとっては小規模の事業ではあるが、ゴルファーからすれば、82年から続く歴史に幕を下ろしたことは悲しいニュースでもあるだろう。一方で、投資家目線では、赤字事業からの撤退は好意的に映りそうな点もあるようだ。
そこで、発表翌日のヤマハの株価を確認すると、4日の終値が1,179円なのに対し、5日の終値は1,167円とマイナス。赤字事業からの撤退というニュースは、株価に良い影響は与えなかったのだろうか。今回のヤマハを例に、事業撤退と株価の関係性について、ゴルフ好きとしても知られる、トレーダーの若林史江さんに話を聞いた。
「ヤマハさんの株価ですが、確かに5日の終値は1,167円でマイナスに終わりましたが、始値は1,225円と、実はすごく上昇して始まっています。利益確定売りで最終的には下がりましたが、朝方は買われていたのは事実です。前日にゴルフ用品事業からの撤退を発表していますが、同時に決算発表も行っており、決算は25年4〜12月期連結の利益が41パーセント増と好調でした。決算内容がポジティブとして買われたのか、不採算事業を撤退したから買われたのか、どこまで株価に影響したのかは分かりません。しかし、不採算事業を切り離すというのは、株価にとってはポジティブです」
ポジティブに働く理由は、バブル時代の悪しき企業経営が関係しているという。
「近年、不採算事業を整理するという流れがすごく続いています。そもそも日本は、バブルの時に多角経営をし過ぎていたという背景があります。ヤマハも高度経済成長からの多角的展開の一環としてゴルフ業界に展開したと思いますが、単純な感想として『楽器屋さんがなんでゴルフクラブを作っているの?』といった具合です。そもそも、本業一本に集中している方が投資家としてはストレートで良いのです。ですが、バブル時代はどの企業も多角経営をした。それにより、企業の一番の強みが生きなかったという歴史があります。そうした過去からも、不採算事業の切り離しは企業のスリム化としてとてもポジティブに受け取られます」
不採算事業を切り離し、企業をスリム化する流れは、東証や海外投資家も目を光らせているという。
「今、日本企業は、東証からも海外投資家からも利益率を上げろと言われています。稼いだお金をちゃんと投資して、上手に企業を大きくする。これをROEの向上といい、株主から預かったお金(自己資本)を使って、どれだけ効率的に利益を上げたかどうかを測る「資本効率」を表す指標なのですが、日本はこのROEが世界的に低かった。稼いだお金をM&Aや事業拡大、研究開発、設備投資などに上手く使えていないのが日本企業の体質だったんです。それを、不採算事業をきれいに整理して本業に力を入れるという方向に大きく舵を取ってきたここ数年でもあります」
つまり、ヤマハの今回のゴルフ用品事業撤退は、現代に即した判断だったとも取れる。
「今回のヤマハさんは、事業の割合がすごく小さくはありますが、とはいえ10億円の赤字を新規投資や主力事業に使えるのは投資家にとってはポジティブ。ゴルフ業界はびっくりだったと思いますし、契約プロも抱えながらで心苦しい部分もあったと思いますが、投資家目線では英断だったと映るのではないでしょうか」
不採算事業を整理して企業をスリム化した成功例として、日立製作所が挙げられる。
「大きい企業でいうと日立製作所がものすごい成功を収めています。日立製作所というと、昔は“総合電気屋さん”というイメージがあったと思いますが、2009年に製造業史上最大の7,873億円という赤字を計上して大問題になりました。しかし、テレビやLED、中小型のディスプレイなど、負の遺産をきれいに切り捨てながらスリム化していった結果、現在はデジタルや社会インフラを中心としたとても良い会社になった。スリム化し、デジタル事業に利益を集中投下した結果、現在の成功、株高となったわけです」
一方で、判断を誤り、上場廃止にまで追い込まれた企業もある。
「昭和の時代に広く手を出して非効率的な経営をしてしまい、失敗した代表例が東芝。粉飾決算をしていろんなものを切り売りしましたが、高い技術を持つ事業まで、マイナス部分を埋めるために売りに出してしまった。例えば東芝メモリ。切り離されたのち、単独で成長を続け、今では日本を代表する「キオクシア」という半導体メーカーになりました。採算部門を切り離した東芝は上昇廃止に追い込まれ、市場では大きな波紋となりました。しかし、その後はインフラやエネルギー事業を立て直し、『やはり日本の東芝』と囁かれるほどまで回復をしています。事業を絞り、集中投資をすることの大切さは、東芝が身をもって教えてくれたいい事例となりました。企業戦略はそのまま株価へ直結します。企業を存続させるためにいいものを切り売りすれば、投資家にネガティブな印象を与えてしまい、市場は拒否反応を起こすのです」
今回の赤字事業からの撤退のようなニュースや、逆に新規事業の発表など、企業が発信する情報を投資家はどれほど重視しているのだろうか。
「それはもちろん、めちゃくちゃ重要です。どこが新規参入したか、主力になる企業の事業にどれだけの影響を及ぼすかなども株価に影響します。企業や銘柄ごとに基準は全然違いますが、その先に成長性があるかも、ものすごく重要視されるのです。成長性で株は買われるので、今の世の中に即しているのかも判断材料に含まれますし、採算が取れる投資なのかも大事。巨額のお金を使ったとしても、それが生産性のある未来に向けた投資であればポジティブに動いたりもします」
ゴルフ業界にとっては衝撃のニュースではあったものの、企業の体質を改善するという意味では、プラスに働く可能性のある決断をしたヤマハ。たかが10億、されど10億。今後、ゴルフ用品事業を撤退したことで生まれる資金をどのように使っていくのか、企業の成長にも注目が集まる。
解説/若林史江
20歳で株式投資を始めた元祖・美人トレーダー。近著に『証券口座の開き方から教えます! 投資の学校 1年生1学期』(宝島社)。TOKYO MX『5時に夢中!』出演中。ゴルフ歴23年、ベストスコア76。