今回は、チョコレートって甘くないの? というお話です。
ゴルフが嫌いな理由に、賭けゴルフがあるから嫌だというものがあります。賭けゴルフ=裏社会みたいな連想をする人もいます。
昔よりも減っていますが、勝ち負けで食事をおごる程度の賭け事をするゴルファーは確かにいます。ゴルフの隠語で、賭けをすることを「ニギリ」と呼びます。これは、賭けを持ちかけて、相手が受けたときに握手をする習慣があったからです。握手=ニギリです。ニギっている。ニギっていない。ニギろう。というようにも使います。
賭けなくとも、ゴルフは楽しいし、ドキドキできます。だから、持ちかけられても、握手をしない、すなわち、賭けを拒否することができます。逃げるが勝ちが認められているのは、ゴルフが紳士淑女のゲームとして育ってきた証です。
バブル真っ盛りの頃、ゴルフコースのレストランのテーブルに「テーブルでの金銭のやり取り禁止」という立て札をよく見ました。急激に増えた無粋なゴルファーが、勘違いして仲間同士の賭けの範囲を超えた高額な博打をゴルフに持ち込んだからです。バブル崩壊で、そういう輩(やから)ゴルファーは絶命危惧種になりました。
ゴルフは基本的に自らの名誉を賭けてプレーするゲームです。金銭ではなく、チョコレートに置き換えた先輩ゴルファーたちは粋でした。ちなみに、平成になっても売店にチョコレートが置いてあるコースこそが、名門コースなのだという評価がありました。個人的にも一理あると思っていますが、歴史を知らなければ意味がわからないのです。
ゴルフはゲームです。ゴルフを育てた貴族たちにとって、賭け事はごく自然な慣習でした。だから、ゴルフは賭け事がしやすいゲームになったのです。時代は何度も変わって、チョコレートは気軽お菓子になりました。食事代よりもチョコ1枚のほうが安く済みます。ニギリはチョコでと令和だからこそ、洒落てみるのも悪くありません。
ゴルフにおいて、賭けは「スパイス」だと言われます。適量であれば、料理を引き立たせることもありますが、大量に使えば台無しにしてしまうからです。チョコレートも少量を料理の隠し味にすることがあります。ゴルフは美味しく食するように、楽しむのが正解なのです。
さて、タテヨコとかヘビカマって何ですか? という話も面白いのですが…… それはまた、別のお話。
文・篠原嗣典/画像・GettyImages