レジェンドプロが太鼓判を押す大器
松山英樹がマスターズでローアマに輝いた2011年の暮れ、チャリティイベントで来日したゲーリー・プレーヤーは連続写真を食い入るように見つめ「ほーっ」と吐息を漏らした。そして冒頭の言葉を紡いだ。
アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラスとともにビッグ3の一角を担ったプレーヤーは、小柄ながらみなぎる闘志でメジャー9勝を挙げた。ニクラスより先にグランドスラマーとなった正真正銘のレジェンドだ。その彼が松山に“将来のメジャーチャンプ”と太鼓判を押したあの日から9年。28歳になった日本のエースはいま世界のトップランカーとしてゴルフ界を牽引している。
22歳でニクラスがホストを務めるビッグイベント、メモリアルトーナメントで米ツアー初制覇すると17年までに日本人最多の5勝を挙げた。しかし彼にはひとつ足りないものがある。
それはメジャーの勲章だ。
「勝てる人になりたい」、松山は涙を流した
首位と1打差で迎えた最終日、前半で単独トップに浮上しリーダーボードの最上段から下界を見下ろした。勝負のサンデーバック9の出だし10番で7メートルのバーディパットをねじ込んだときには、いよいよメジャー制覇への期待が高まった。しかし11番から3連続ボギーで首位の座を明け渡すと、14番&15番のバーディで息を吹き返したかに見えたが16番のボギーで万策尽き、結果5位タイに終わった。
ラウンド後ポーカーフェースの松山が涙を見せた。
「ここまできた人はたくさんいると思いますが、ここから勝てる人と勝てない人の差が出てくると思います。勝てる人になりたい」と涙を拭って言葉を絞り出した。
あと数センチまで迫った栄冠はジャスティン・トーマスの頭上に輝いた。“勝てる人”との差を埋めるにはなにが必要なのか?
ミスター・ショットメイキングマシン
「海外で練習場に行くと日本人はすぐ分かるんです。小さいし華奢ですからね。大男たちに混ざると高校生のように見えてしまう。でも松山クンは違うんです。外国の選手たちと並んでも胸板とかまったく遜色がない。練習場でも周囲に溶け込んでどこにいるか分からない(笑)」
体格以外にも違いがあるという。
「石川遼クンはたまに僕がアメリカの試合に出ると“練習ラウンド、一緒にやりましょう”と誘ってくれるんです。でも松山クンはいつの間にか外国の選手と一緒に回っている。先輩への気遣いがないとかそういうことではなく、自分のペースがしっかりあってアメリカに居場所を持っているんです」
松山にとって海外はもはやアウェイではない。
欧米メディアがよく話題にする“ネクストメジャーチャンピオンは誰?”のテーマで、松山はリッキー・ファウラーやジョン・ラームとともにリスト上位の常連だ。トーナメント中継でアナウンサーは「マツヤマ・イズ・ショットメイキングマシン」という表現を使う。まるで精密機械のような正確さでピンを刺すショットは松山の代名詞。これまで海外で活躍した日本勢はショートゲームに活路を見出すタイプが多かったが、松山は同僚プロも羨むショートゲームの技術とともにショット力という強烈な武器がある。